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(写真・神奈川新聞社)

 

大正6年生まれで100歳を迎え、世界平和の夢を語る女性がいる。深く胸に刺さっているのは、終戦直前に空襲で家を失った戦争体験だ。通っている介護施設のイベントで平和への願いを語り、冊子にまとめた。

 

「夢なんてないって言ったの」

 

鎌倉市在住の松村吉子さんは声を出してちゃめっ気たっぷりに笑う。2月9日で100歳になったが、つえを使わず外出する。

 

週1回通うデイサービス施設「リハビリデイセンター悠 大船」(同市台)で昨年、「夢の発表会」への出場を誘われた。施設の運営会社「マエカワケアサービス」などが開くスピーチイベントだ。一度は断ったが、「99歳でこんなに健康。舞台に立つだけで皆さんが元気をもらえるから」と説得され、テーマを考えた。

 

生まれは大阪市。24歳で結婚後、旧日本海軍の海軍工廠(しょう)に勤める夫の転勤で静岡県沼津市に移った。終戦1カ月前、空襲に見舞われた。家族に犠牲は出なかったが自宅は焼けて無一文に。「幼い長女をおぶって、ただ呆然(ぼうぜん)とした」

 

今もテレビや新聞にあふれる災害や内戦のニュースに胸を痛める。「天災は逃れようがないかもしれない。でも戦争は人災。子どももたくさん亡くなる。こんなこといつまで続くんだろう」。強く平和を願う。

 

「生きてきた100年の中で一番大きな出来事は戦争だった。戦争をなくすことはできる。互いに理解し笑い合えたとき、世界に平和が訪れる」。昨年5月、発表会の舞台で訴えた。

 

約300人の来場者の投票で、松村さんが最優秀賞に選ばれた。松村さんの思いを知ってもらおうと、発表の内容や生い立ちをまとめた冊子を同社が2千部制作した。

 

「初めは人前で話すなんて嫌だったけど、戦争体験者として多くの人に反戦を伝える義務があると気づいた」。願いはこの国のあり方にも及ぶ。「相手が拳を振りかざしても、こちらは平手で受け止めて。世界中に平和を呼び掛ける日本であってほしい」

 

冊子は県内にある同社の事業所15カ所で100円(税込み)で販売する。問い合わせは、同社本部・電話046(874)4970。

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