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(写真 神奈川新聞)

 

入所者19人の命が奪われた県立障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)の建て替えに向けた解体工事が7日、始まった。障害者を取り巻く社会の在り方を問い掛けた事件は、また一つの節目を迎えた。凶行の現場であっても、思い出の詰まった場所。事件の教訓とともに、笑顔の記憶をつないでいく-。関係者は障害者が生き生きと暮らせる地域の未来を見詰めた。

 

県が取り壊すのは、2016年7月26日に殺傷現場となった居住棟2棟と渡り廊下のほか、老朽化していた作業棟。事件後に入所者らが暮らしていた体育館などは改修して再利用する。19年度に新築工事を始め、21年度の利用開始を目指す。

 

45人が殺傷された居住棟は事件直後に特殊清掃が施されたが、黒岩祐治知事は「改修で適切な支援を継続するのは困難」と判断。家族会も「いかに改修しても忌まわしい事件の影を消し去ることはできない」とし、「地域と知的障害者の希望につながる施設」に建て替える方向性が決まった。

 

だが、施設再建の議論は混迷を極めた。元の場所に従来(定員160人)と同じ大規模施設を建て替えるとした当初案に対し、一部の障害者団体などが反発。障害者施設のあり方を巡る議論を重ね、県は昨秋にまとめた再生基本構想で、「大規模施設から地域へ」の基本理念の下で専門性の高い拠点機能を備えた小規模施設を分散して整備する方針を示した。千木良園舎は定員11人の居住棟を最大8棟整備し、現在の生活の場となっている芹が谷園舎(横浜市港南区)と合わせて全130人ほどが暮らす施設に生まれ変わる。

 

両施設の最終的な定員は、現在進めている入所者の意向確認を踏まえて決める。すでに十数人の意思決定支援に着手しており、グループホームでの生活を体験するなどし、障害者と健常者が地域で支え合って生きる共生社会の実現を目指す。事件後、県内外から多くの人が足を運んでいる献花台は、今後も月命日の毎月26日に千木良園舎の正門近くに設けられる予定だ。

 

知事は7日、神奈川新聞社の取材に「さまざまな思いはあると思うが、新たな第一歩。非常につらい事件を乗り越えながら福祉先進県神奈川と言われるよう、完成に向けて努力していきたい」と述べた。

 

事件を巡っては、殺人などの罪で起訴された元職員の植松聖被告(28)について、横浜地裁が今年1月、精神鑑定の実施を決定。公判時期は決まっていない。

 

◆曲折経て目指す「共生」

 

建て替えに向け、解体工事が始まった県立障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)。7日午前8時半すぎ、事件で長男一矢さん(45)が重傷を負った尾野剛志さん(74)はトラックが正門を抜け、無人の管理棟前に資材を次々と運び込む様子を見つめた。「さみしい。でも、子どもたちが良い環境で暮らすための第一歩」。募る思いを押しとどめ、前を向く。

 

1998年から17年間、入所者家族でつくる家族会の会長を務めた。園の運動会や祭りには多くの地域住民が訪れ、入所者らと交流を深めた。「いつも温かく見守ってくれたかけがえのない場所。事件のつらい記憶さえなければ良い思い出しかない」。妻チキ子さん(76)は「息子に会える、みんなに会えると楽しみに通ったのを思い出す。またその日が来ると信じている。園にありがとう、です」と声を震わせた。

 

「みんなで食事をしている場面など何げない日常の風景が思い起こされる」と振り返るのは入倉かおる園長。「取り壊すことだけを考えれば悲しく、むなしさもある」と話す。

 

新たな施設については「安心安全な施設を造ってもらうのが第一。そして利用者の暮らしのリズムに寄り添った施設運営をしていかないといけない」とし、「マイナスからのスタートになるが、信頼を取り戻して一から築き上げたい」。

 

家族会の大月和真会長(68)は「寂しさや事件が起こったことに対する悔しさなども含め、新しく生まれ変わる津久井やまゆり園は皆さまから褒めていただけるような施設に是非ともしてほしい」とのコメントを出した。

 

園近くで暮らす太田顕さん(74)は正門前に築かれた高さ約3メートルの仮囲いを見上げ、「再建された施設で生活する人を歓迎したい」と今後を見据える。

 

施設職員として36年間働き、2004年に退職。地元住民で立ち上げた会の共同代表を務め、障害者を取り巻く社会のあり方を考える一周忌の集いなどを企画。月命日には献花台を訪れる人の案内役をボランティアで続けてきた。

 

「施設を再建すれば終わりではない。再び事件が起きないために活動していきたい」