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まっすぐな瞳が印象的なMIMURIさん(左)。一つ一つの作品に、スタッフと共に思いを込めます(写真・琉球新報社)

 

那覇市の浮島通りを歩くと、古い建物の1階に、ペパーミントグリーンの看板、店先を彩る緑の植物、カラフルな店内が見えてきます。沖縄の動植物や風景を色鮮やかに描くテキスタイルデザイナー・クリエイターのMIMURIさんのお店です。

 

トロピカルなフルーツ、太陽の光をいっぱいに浴びた島野菜、色とりどりの魚たちが泳ぐ海の森-。そんな沖縄の身近な風景や動植物を描いたオリジナルプリントで作るバッグや小物は、まさに「沖縄を持ち歩く」というMIMURI作品のコンセプトそのもの。

 

普段、私たちが何気なく通り過ぎている日常の風景、当たり前だと思いがちな沖縄ならではの自然を、MIMURIさんは好奇心と愛情たっぷりのまなざしで見つめ、描き、布にのせていきます。  きらきらした瞳が印象的なMIMURIさんに、制作への思いや、デパートリウボウさんとのコラボ企画などについて聞きました。

 

野菜や果物、そのものの「色」

 

Q MIMURIさんの描く絵、テキスタイルの色は、明るくて、鮮やかで、優しい感じだけど、すごく映える。どこから湧き出てくるものなんでしょうか?

 

「うーん、フルーツや野菜がそもそもそんな色をしているんですよ。街並みでも建物のピンクとか、結構すごい色をしていますよね。沖縄の紫外線に照らされた色というか、そういうのが自然に出ているのだと思います」

 

Q 今回、デパートリウボウさんとコラボした柄は、沖縄の街並みを描いたものですか?

 

「街並み、ではなくて、『家柄』、沖縄の家々ですね。新作に、デパートリウボウさんのロゴやハートを加えました。

沖縄の家といっても、いろいろありますよね。瓦屋根や花ブロック、スラブ家、トタン家、外人住宅、ベランダの広い家とか。瓦家も、赤い瓦や白い瓦や」

 

Q おお、本当だ。なんと、屋上のタンクやアンテナも描かれていますね。

 

「そうそう、タンクとか家の屋上によくありますよ。
そして、庭先に植えられているフクギやワシントンヤシ、クロトン、トラノオ。歩いている猫や犬も。
沖縄って風水とか考えて家が造られているっていいますね」

 

日常を観察する

 

Q なんだか懐かしい景色だなと思いました。これは街を歩きながら、観察しながら、描いているんですか?

 

「散歩しながら、家を見て、これは内地とは違うよなとか特徴的だなとか見ちゃいます。ここにこんなすごい色を家に塗る?というくらい鮮やかな色の家もあります。変わったタイルだな~とか、日焼けした建物の色とか、石敢當とか。これは家の組み合わせなんですが、やってみようというテーマで、デザインの全体を考えていきます。これまでも猫やフルーツなどをテーマにしてきました」

 

Q 「もの」を生み出せる人、作り出せる人ってほんと羨ましいです。私、図工や家庭科は2だったんで憧れます(涙)。MIMURIさんにとって、ものづくりってどんなことですか?

 

「ものをつくることですか。うーん。単純に楽しいです。考えたことを形にできるって、すごくないですか。それはみんなの力があっての話で、私がすごいわけではないんですよ。
私はデザインをするけど、縫い子さんとか革の工房さんとか、スタッフとか、頑張ってくれているのは皆さんで。そして作った物を喜んで購入してくれる人がいるということが、すごく嬉しいですよね。
お店で販売に立つこともありますが、作り手、売り場の一連をみんなで見ることができ、すごく刺激的。面白いです。

 

Q お店の場所もいいですね。人が引き寄せられる感じがします。

 

「街がすごく面白いです。高校時代もちょろちょろこの辺で遊んでいたりしたんですが、都会なんだけど、街の人たちがあったかい。商売だから、っていうのがないし、すごく楽しいです。お店のおばちゃんとか、しーぶん(おまけ)を必ずくれるし(笑)居心地いい!」

 

「くぇーぶーです(笑)」

 

Q おじいちゃん、おばあちゃん達に好かれそうですね

 

「はい、よくいろんなものをもらってます。お菓子とか、猫の餌とか、季節の行事のお餅とか、ふちゃぎ(餅に小豆をまぶしたお菓子。八月十五夜にお供えする)とかもありました(笑)。ほんと、絶えないです」

 

Q MIMURIさん自身が引き寄せている感じがします。

 

「はい、くぇーぶー(食にありつく果報、タイミングよくごちそうにあたる人)です。かなり(笑)。体が細いから、『ちゃんと食べなさい、かわいそう』って思われるんじゃないですかね(笑)」

 

Q 街って、その風景だけじゃなくて、人や生き物、自然、いろんなものが溶け合っていますね。大学は東京に出たと聞きましたが、やっぱり沖縄に帰って来ようと思ったきっかけは?

 

「東京では、美術の大学に行ったんですが、卒業後は就職はしないでバイトしながら制作活動をしていました。
でも、『原点を見つめ直そう』と思って、いったん石垣に帰って、ばあちゃんの家で自然を見ながら、スケッチしながら、制作活動して、それから那覇に出てきたので、だいぶパワーを充電してきました」

 

東京生活、そして故郷石垣で「原点」に

 

Q 逆に言うと、東京ではすりへっちゃった?描きたいものがなかったんでしょうか?

 

「はい、描きたいものがなかった。受験勉強で『もう絵を描きたくない』っていうくらい、たくさんデッサンをして、大学に入ってからは、絵は描かないで、シルクスクリーンとか、染める作業とか、習得しないといけない技術がたくさんあったので、そこに専念しようと思いました。
卒業して自分のオリジナルを作り出そうと思った時、絵を描く題材がなかった。虫を描きたいと思っても東京では周りに全然いないし、そういう雰囲気でもない。なんかなーと思っていたんですよ。
そんな時に、ちょっと石垣に帰ってみようかなと思って」

 

「帰ったら、その自然のすごさに『もう、すごい!』ってなって。庭の緑は刈っても刈ってもわんさかわんさか次から次へと生えてくる。生命力があふれていて、自然がたくさんあるのが楽しくって。ばあちゃん家でそれをずっとスケッチしていました。
それが今のこの『密集地帯』みたいな柄になっていったんです。余白ないですよね(笑)。そのくらい、生き物の強さというものを、石垣・白保で感じました。
東京は、自然じゃなくて建物や人で『隙間がない』と思って『あ~苦しい』と思ったんですけど、ここはそうじゃない」

 

Q それから、那覇に移ってアトリエを構えることになったんですね。

 

「はい、公設市場内の水上店舗に。
水上店舗って面白くて、ものづくりをしている人もいっぱいいて、制作にも刺激があるし、いろんなお店もあって、しーぶんもいっぱいもらいました(笑)。
それから浮島通りに移って5年ほどたちます。観光客もいますけど、地元の人もけっこういっぱいいますよ。通勤の人もいるし、地元のおばあとか普段から顔出してくれて。
こないだ、『スタッフ募集』っていう紙を貼っていたら、90歳くらいの腰の曲がったおばあが来て『募集している? おばあがやるか~?』って(笑)。『だー、おばあはやれるかね~』みたいな(笑)。
他にも、近所のおじいが、泡盛とおつまみ持って、「食べるか?」って来たり、おやつ持って来てくれたりします」

 

「布」にしかできないことを

 

Q やっぱりMIMURIさんが引き寄せているんじゃないですか~(笑)。ご自身の中ですべてがつながっているんだなと感じます。ものをつくることをパーツパーツで見ているんじゃなくて、お年寄りの話もしーぶんも街の雰囲気も全て、自然に制作につながっている感じがします。これから作ってみたいものはありますか?

 

「これからしたいことは、いっぱいあります。いっぱい企んでますよ。
ネタバレしていいのは、子供服。スタッフに子どもができたのが大きいんですがベビー服を作ってみたい。レイングッズもやりたいです。
こだわりは布。ぱこぱこできる工業製品ではなく、布にこだわっていきます。だからスマホケースは作りません(笑)。
もともとテキスタイルデザインから始めたので、そこはぶれずにいたい。布にしかできないことはあるし、いかに人が手を入れて仕上げていくか、広がっていきますから。
休みの日は、猫と遊んだり、緑を生やしたり。あと、最近スラックライン(綱渡りスポーツ)にはまっています。近所の公園で木に綱をはってやったりしてますよ(笑)」

 

文・座波幸代
写真・又吉康秀、新里圭蔵

 

MIMURI(ミムリ)

 

1980年生まれ、石垣市出身。開邦高校芸術科、女子美術短期大学アパレルデザイン(東京)卒。大学在学中から布の図柄をデザインするテキスタイルデザイナーとして活動している。「MIMURI」は祖父母の屋号。東京や大阪など全国各地の百貨店で開催される沖縄物産展での出店や、JTAとコラボした機内での作品展示、俵万智さんの歌集「オレがマリオ」装画など、活動の幅を広げ、カラフルな柄で見る人を楽しませている。

 

~ インタビュー後記 ~

 

優しいピンク色の壁の店内を見渡すと、色鮮やかなバッグや小物が所狭しと飾られている。種のディテールまで細かくやわらかに描かれたパパイアや、昔のまちやぐゎーの店先で吊されていたよな~と思い出してしまう島バナナ、すーじぐゎーでお昼寝しているような猫―。ゆったりした昔の時間の流れや小さい頃に見た風景を思い出し、懐かしい気持ちがじんわりと湧き出てくる。

 

青い目の「美猫」ビビさんが、カウンターで気持ちよさげにお昼寝。足踏みミシンに飾られた鮮やかな作品。スタッフの笑い声―。この心地よい空間、時間の流れが彼女の中から湧き出て、作品をつむいでいるのだろうなと思った。何気ない日常こそ、宝物なのかもしれない。

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