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潮干狩りシーズンまっただ中。県内随一の名所と言えば、横浜市金沢区の「海の公園」だ。アサリの酒蒸し、炊き込みご飯、スパゲティ……。晩ごはんは何にしようか迷いながら浜辺に勢いよく駆け出してみたものの、いくら掘っても見つからない。探し方が下手なのか、はたまたアサリがいないのか。砂の中に手を突っ込んで“主役”不在の謎を探った。

 

海の公園は約1キロにわたる人工の砂浜が広がり、アサリやマテ貝、シオフキなどが自生している。無料で潮干狩りが楽しめるため、大潮と休日が重なると多くの家族連れでにぎわう。

 

同園管理センターによると、今年のゴールデンウイーク(GW)期間中(4月28日~5月6日)の来園者は前年比10%増の約16万4千人。昨年と比べて潮の引きが期間を通じてよかったのが要因とみている。

 

実は、記者もその一人。GW後半、北側の砂浜で熊手を手に、夢中で砂を掘り返すこと小一時間。結果はたった4個。がくりと肩を落としつつ周囲を見回してみると、苦汁をなめているのはどうやら自分だけではなさそうだ。

 

今年のアサリの湧き具合はどうなのか。「あまり取れない、全く取れなかったという声が寄せられている」と同園管理センター。去年、今年と不漁が続いているが、その理由は「分からない」という。

 

超人の技実践

10日後、リベンジの機会は巡ってきた。「潮干狩り超人」として知られ、潮干狩りに関する著書もある原田知篤さん(68)=横浜市港北区=に弟子入りを請い、快諾を得たのだ。

 

指定された集合場所は南側の砂浜。この辺りにアサリの集まる「ホットスポット」があるらしい。師いわく、潮が引く際に現れる盛り上がった砂地の岸側斜面や、アサリが砂の表面に出した水管の2つの小さな黒い穴を探すのがこつだ。

 

いざ実践。「1個見つけたら近くに30個いる」と原田さん。引く潮とともに沖へ掘り進み、大粒のアサリを選んで網袋に次々と放り込んでいく。海水に浸ること約3時間。超人には遠く及ばなかったものの、195個もの収穫があった。

 

心地よい疲労感と満足感に浸っていると、原田さんがずばり。「私の知る限り、今年は過去30年で一番良くない」。2月から11月にかけ、年20、30回訪れる超人にとって、ここは本拠地も同然。「GWに取り過ぎてなくなる年はあっても、シーズン前から少ないのは初めて」。早い時期から異変を感じ、昨年を下回る不漁を予感していたという。

 

狭まる生息域

なぜ、アサリは消えたのか。5月下旬、海の公園沖でアサリの生育調査を行っている東邦大の風呂田利夫・名誉教授(海洋生態学)に同行させてもらった。

 

調査はアサリの生息数を把握するため、7年前から始めた。月1回、あらかじめ決められた20カ所の海底の砂利を採取し、アサリの稚貝の数を調べている。

 

風呂田さんによれば、海の公園のアサリの多くは、東京湾沿岸で生まれた幼生が干潟に流れ込み、着底したもの。成長とともに砂浜の北側から南側へと少しずつ流されていくらしい。

 

この日確認できた稚貝は1672個。ほとんどが1センチ以下で、砂浜の北側から中央付近に集中していた。多かった4年前は3倍の5千個前後だったという。

 

「ここに限らず、東京湾全体でアサリが減っている」と風呂田さん。湾沿岸で埋め立てが進み、アサリの生息場である干潟が失われ、幼生の数だけでなく着底できる場所も減っているのが一因と分析する。

 

では、海の公園の潮干狩りの行く末やいかに? 「これが一過的な現象かどうかは、東京湾の全ての干潟を調査してみないと分からない。データがなければ、アサリの模様のようには白黒つけられない」

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