名護市辺野古の新基地建設工事に伴い、沖縄防衛局が設置した環境監視等委員会を巡り、防衛局職員が今年4月に辞任した元委員で琉球大名誉教授の東清二さん(85)に対し、辞任後は報道機関の取材を受けないよう「口封じ」と受け取れる対応を求めていたことが、21日までに分かった。東さんは環境保全を最優先とした科学的な検証や議論を避け、いかに基地建設を推し進めるかという点に注力した委員会の姿勢に耐えられないとして辞任した。防衛局が「形式ばかりの環境保全措置」の実態露呈を恐れていた可能性がある。
環境監視等委員会は、仲井真弘多前県知事が埋め立てを承認する際、承認の条件「留意事項」として2014年に設置された。東さんは豊かな自然環境が残る辺野古・大浦湾を守りたいとの思いで、初期から副委員長として任務を引き受けていた。だが、委員会の審議でジュゴンなど希少生物の実効性ある保護対策を求める発言をした際なども「事務局に聞き流されるか、『検討する』の一辺倒で真剣に検証する姿勢は見られなかった」といい、回を重ねるごとに委員会の機能不全ぶりに失望したという。
体調不良も重なり、15年冬に辞任の意向を伝達し、委員会を欠席していたが、防衛局から「年度末まで委員名簿に名前だけでも載せさせてほしい」と求められ、最終的に解職通知を受け取ったのは今年4月だった。
口封じ行為について本紙が防衛局に事実確認したところ、質問の詳細が不明で回答は困難と前置きした上で、「委員会における議論や個別事項等にかかる問い合わせについては事務局が対応する」と回答。委員が個別で取材対応することを基本的に認めない考えを示した。
東さんは「防衛局は悪いことをしている自覚があるからこそ、都合の悪いことを話されるのを恐れていたのだろう」と述べ、「著しい環境破壊につながる辺野古埋め立て工事には断固として反対だ」と訴えた。
◆「基地優先」の露呈懸念
沖縄防衛局の担当者が環境監視等委員会を辞任した元委員に対し、報道機関の取材に応じないよう求めた背景には、環境への配慮より基地建設の推進を優先する委員会の実態が露呈することを回避する狙いがある。
前県知事により埋め立て承認の条件として設置された環境監視委の目的は、“第三者の目”で工事による環境への影響を「監視検討」することだが、元委員の証言により機能不全の実態が見えてきた。留意事項の違反は承認撤回の重要な根拠ともなり得る。
環境監視委を巡っては、これまでも一部委員が移設関連工事の受注業者や関連団体から寄付や報酬を受け取っていたほか、発言者を全て匿名とする信ぴょう性に欠けた議事録が問題視されてきた。
防衛局は環境分野の各専門家である委員の意見を聞き入れずに工事を進め、大量のサンゴを破壊した経緯もある。環境を守ろうと真剣に取り組んできた委員がその意義を見い出せず、辞任するのは必然といえる。
防衛局は環境監視委の透明性・信頼性を立証するため、委員会を公開し、専門家の発言に責任を持たせるためにも議事録の匿名制度を改める必要がある。県もより厳しい目で環境監視委の実態把握に努めるべきだ。 (当銘千絵)
◆機能不全の監視委 桜井国俊沖大名誉教授
設置当初から環境監視等委員会の在り方は問題だった。県民に広く知れたら困ることがあるのか、沖縄防衛局は当初、委員会の議事録自体を非公開としていた。環境団体などの指摘で現在は公開されているが、発言は全て匿名だ。環境問題を論じる際、専門家は自身の発言に責任を持つため氏名を公表するのが国際基準の常識だ。防衛局は活発な意見を促すためと理由付けているが、実態は「専門家のお墨付きをもらった」という既成事実を得るためだけに設置した委員会としか言いようがない。
東清二先生の勇気ある証言は、このままでは辺野古大浦湾の海や生物を守れないという危機感から生まれた魂の叫びだ。環境問題の専門家としてあるべき姿を見せていただいた。前知事が埋め立て承認の留意事項に付した環境監視委の機能不全は明らかで、留意事項の違反は承認撤回の揺るぎない根拠になる。 (談、環境学)