8月8日、翁長雄志知事がすい臓がんのため亡くなりました。67歳でした。
翁長知事は1985年の那覇市議会議員当選後、県議会議員、那覇市長を経て2014年の沖縄県知事選で現職の仲井真弘多知事を破り、沖縄県知事となりました。県議会議員時代には自民党沖縄県連の幹事長も務めています。
翁長知事はアメリカ軍普天間飛行場の辺野古移設に反対し、政府と対立していたことで大きな注目を集めていました。そのため、全国からも多くの追悼の声が寄せられました。
そうした中で、ごく一部ではありますが、その死を露骨に喜んだり、個人を侮辱する言葉がネット上の掲示板、SNS、ニュースのコメント欄に書き込まれていました。
残念ながらこうした書き込みは、今回に限った話ではありません。特に政治的に影響力の大きい人が亡くなった場合は、考えに異を唱える人たちから汚い言葉が発せられます。
政治家になら何を言ってもいいわけではない
今回翁長知事を中傷するコメントは、「病気を揶揄する」「身体的特徴を嘲笑する」と大きく 2つのパターンがありました。内容が「低俗かつ不快」なので個別の事例をあげつらうことは避けますが、どれもとにかくひどいものです。
翁長知事も政治家ですので、批判や反対意見が出てくるのは健全なこと。しかしながら政治家だからといって何を言ってもいいわけでもなく、一定の配慮は必要です。
例えば「LGBTは生産性がない」と雑誌に書いて炎上した杉田水脈参議院議員。彼女に対する批判も多く集まりましたが、その中で朝日新聞出版のニュースサイト「AERA」が「杉田水脈議員の顔には『幸せに縁がない?』観相学で見たら…」と題する記事を掲載。
この記事では杉田水脈議員の人相を「全体の印象として『幸せに縁のない』お顔」と評価し、人相を元に批判を展開していました。(現在、該当記事は削除済み)
杉田水脈議員の書いた記事はLGBTの現状認識などを含めてひどいものでしたが、それを受けて「幸せになれない人相」と記事にするのは、あまりにもお粗末です。
また、2007年9月に安倍首相が「潰瘍性大腸炎」で辞任したことを受け、「お腹が痛くてやめた」などと未だに言う人がいます。総理大臣は病気になっても大丈夫なスーパーマンではありません。こうした病気を「茶化す」ようなコメントは、同じ病状で苦しんでいる人、悩んでいる人をも追い詰めるので、避けるべきです。
政治家の言動を批判、評価、議論するのならともかく、見た目や病気を取り上げて評することは、議論が逸れるだけで前に進みません。
ましてやそれが誰かを傷つけるような攻撃性の高いものであれば、尚更やめるべきです。
こうした言動をネットではよく見かけますが、学ばず、当たり前と思わず、自分は使わないように心がけましょう。
亡くなったあとも続くデマの拡散
また誹謗中傷ではなく、翁長知事への「評価」で目立ったのは「中国のスパイ」などとした表現です。
ネットで良く見かける「米軍基地に反対する→沖縄から基地が無くなると領土拡張を目指している中国を利する→中国のスパイ」という三段論法です。
そうしたロジックで、「翁長は中国のスパイ」とした言説が生前から流布し、「娘は中国に留 学し、共産党幹部と結婚した」などとしたデマにまで発展しています。
あわせて「翁長知事は那覇市長時代に福州市から名誉市民の称号ももらっている!」など、挙げていけばキリがないほどのデマ・噂を流され、議会でも否定する答弁を行っております。
知事、ネット上の風説否定 娘が中国留学/上海の外交官と結婚
https://ryukyushimpo.jp/news/prentry-250046.html
翁長知事の訃報をうけ、沼津市議の男性が「(翁長知事は)知事選挙においても中国の支援を受けていることが確定だったといわれている」とTwitterに投稿をしたことで話題となりました。
「翁長知事に中国の支援」 沼津市議が投稿、 根拠示さず
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-783859.html
沼津市議の男性はその後、「翁長知事の『中国の支援』について、私が知ったのは主に、青山繁晴さん(参議院議員)のご著書『ぼくらの哲学』です。」とTwitterに投稿。
ジャーナリスト出身とはいえ、現在公人となっている青山繁晴議員には、ぜひとも具体的な根拠を出して欲しいと思います。
翁長知事は生前、沖縄に関する県外の人たちの無関心と、流布されるデマに怒っていました。 そうした翁長知事の死後、「中国のスパイだったんでしょ」などと無関心の上にデマが乗っかったコメントが、誹謗中傷に混ざり多く書き込まれる。やりきれない気持ちでいっぱいです。
この連載で何度も述べていることですが、デマや不確かな情報は偏見を助長し、解決が難しい社会問題の議論を止めることになります。
ネット・SNSが発達したことで、誰でも簡単に情報が拡散できるようになりました。そのため、デマや不確かな情報がものすごいスピードで拡散されます。
軽い気持ちで広げた情報が、積み重なることで誰かを苦しめることになる。 そうした自覚を持った上で、インターネットを正しく使いましょう。
親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。
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【プロフィル】
モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。
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