初のプロレス観戦に興奮する比嘉悠歩君(右)、颯汰君兄弟 画像を見る

 

新日本プロレス沖縄大会に潜入してみた。
 →「プロレス 愛してまーす」と叫んだ。

 

いま、プロレスが社会現象になっている。「怖い」「痛そう」「流血」といったイメージも過去のもの。試合会場には「プ女子」と呼ばれる女性ファンや家族連れが詰め掛ける。

 

業界最大手「新日本プロレス」の沖縄大会に潜入してみると…熱気と興奮、あふれる「プロレス愛」にスリーカウントを奪われた。

 

ゴング前からあっせんなよ

 

もう並んでるやんか―。2月27日午後2時半、那覇市の県立武道館。試合開始の4時間前にもかかわらず、当日券を求めて6、7人のファンが列を作っていた。先頭の男性2人組に声を掛けると、「1時間前から並んでます」と言う。

 

沖縄市の宇根良祐さん(27)、良幸さん(25)兄弟で、プロレスファン歴は「数カ月」。NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見て、“制御不能のカリスマ”内藤哲也選手(36)のプロ意識にほれ込んだ。初の生観戦を前に「めちゃめちゃ楽しみです!」と少年のような笑顔を見せた。

 

すぐ近くに本当の少年がいた。名護市の比嘉悠歩君(12)、颯汰君(10)。こちらも兄弟。学校から帰ると、録画したプロレスを見て、プロレスごっこをして遊ぶという。「お願い、行かせて!」と頼み込み、母の若菜さん(39)と初めて来場した。記者がカメラを向けると、デビュー戦のような緊張した様子でファイティングポーズを決めてくれた。

 

ファンサービスもレベルが違うんだよ

 

試合開始まで2時間を切った。会場周辺は、お気に入り選手のTシャツや帽子を身に着けたファンで混雑してきた。半数近くは女性だろうか。

 

沖縄市の砂川百利亜(ゆりあ)さん(29)は、内藤選手率いる人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」の衣装で全身を固めた。来場は昨年に続いて2回目。「プロレスは『血だらけ』『痛そう』ってイメージだったんだけど、実際は全然違った。熱くて、カッコいいです」

 

目をきらきらさせて語る砂川さんに聞いてみた。

 

―プ女子ですか?

「はい!」

 

試合前に“100年に1人の逸材”棚橋弘至選手(42)のサイン会が予定されていた。整理券配布を待つ列に、大きなカバンを抱えた女性がいた。数年前から棚橋選手のファンという斎藤恵さん(31)。会社を休んで千葉市から駆け付けた。「プ女子ですね。一眼カメラで写真撮って、ツイッターに上げて。タナ(棚橋選手)は私の『光』って感じです」

 

同じ列に、県内唯一のプロレス団体「琉球ドラゴンプロレス」(琉ドラ)のTシャツを着た女性がいた。沖縄市の屋嘉枝利子さん。精神的にしんどかった5年前、ラジオで琉ドラの存在を知った。「明るくて元気をもらった。私はとっくに50歳を過ぎてますが、試合を見たら『よし、頑張ろう』って思うんです」

 

午後5時半、開場と同時にファンが武道館に駆け込んだ。リングサイドで選手3人が写真撮影に応じる。「ピース!」。スタッフがシャッターを押してくれる。至れり尽くせりだ。

 

棚橋選手のサイン会も始まった。こちらもすごい行列。棚橋選手は立ったままサインし、終わると、丸太のような腕で1人ずつハグする。子ども連れの女性も飛び上がり、「ヤバい」と声を漏らした。

 

20年近いファンという本山裕子さん(32)=那覇市=は「2年ぶりだね、って言ってくれた。覚えてくれててうれしい」と顔を赤らめた。西原町の翁長孝弥さん(22)は「おととい彼女に振られました」と告白。棚橋選手は「きっと立ち上がれるよ。何度でも立ち上がるのがプロレスだ」と励ました。その姿を見ていると、AKB48よろしく、まるで「会いに行けるアイドル」だった。

 

お帰りなさい、こけし

 

午後6時半、会場が暗転した。いよいよだ。満員の2791人から手拍子が起こる。大音量の入場曲がそこへかぶさる。プロレス界を代表する人気マスクマン、獣神サンダーライガー選手の入場だ。沸き上がる大「ライガー」コール。第1試合から会場のボルテージは最高潮に達した。

 

琉ドラの2選手を交えた6人タッグで開幕した。選手の体重は100キロ前後。筋肉の塊がリングを揺らし、地響きのような音を立てる。張り手一つで会場がどよめき、飛び散る汗がスポットライトに照らし出される。

 

「頑張れー」「やめて!」。男性客に交じり、女性ファンの声が上がる。その1人、最前列に座った園部恭子さん(51)は3年連続で台湾からやって来た。通勤時や家事の途中も、インターネットで新日本プロレスの動画を見ているという。ファンのSANADA選手(31)が勝利すると、「幸せです!」と声を弾ませた。

 

メインイベントに登場したのは棚橋選手、“暴走キングコング”真壁刀義選手(46)、そして”こけし”こと本間朋晃選手(42)。本間選手は2年前の沖縄大会で中心性頸髄(けいずい)損傷の重傷を負い、1年以上の欠場を強いられた。対するは巨体の外国人選手2人と、本間選手を欠場に追いやった邪道選手(50)だ。

 

本間選手は途中、攻め込まれる場面が続いたが、仲間のアシストを受け、代名詞のダイビングヘッドバッドを敢行。最後は真壁選手がニードロップをさく裂させ、スリーカウントを奪った。

 

マイクを持った本間選手は「沖縄ー、帰ってきたぞー!」と絶叫。「(2年前のけがで)首から下が全く動かなくなって、正直、もう駄目かと思いました。でも、ファンの応援があったから、今日を迎えることができました…」と話し、涙で声を詰まらせた。会場は割れんばかりの「ホンマ」コールと拍手に包まれた。

 

その時、沖縄市の金城志乃さん(38)は泣いていた。2年前、本間選手が救急搬送された光景を鮮明に覚えている。「会場が凍り付いた」。正直、復帰は難しいと思っていた。それだけに、リングに立って、懸命に相手に向かっていく本間選手の姿に感動した。「プロレスは私の生きる糧。今日も元気をもらいました」

 

最後は棚橋選手がマイクを持ち、叫んだ。「沖縄の皆さーん、愛してまーす!」。全7試合。約2時間20分のドラマは幕を閉じた。

 

ネット普及で人気は世界へ

 

動画配信サービス「新日本プロレスワールド」の会員が約10万人に上るなど、国内外で人気が高まっている新日本プロレス。なぜいま、これほどウケているのか。「ファン歴28年」で毎年、ビッグマッチに足を運ぶという小口幸人弁護士(40)=八重瀬町の南山法律事務所=に聞いた。

 

ネットの普及が大きい。これまでは深夜のテレビ放送で、一般の人が接する機会があまりなかった。通信環境が整い、世界中で動画を見られるようになった。日本は世界でも珍しく、言葉に頼らず技や試合内容で魅せるプロレス。レベルは世界一だ。今や国境を越え、海外のプロレスも「日本化」している。

 

カードゲームの子会社になったことで、子どもがプロレスに触れる環境ができてきた。プロレスを見ると、「何だこれは! アニメやゲームが現実になった」と驚くだろう。選手はテレビへの露出が増え、SNSでも発信している。流血もなくなり、女性ファンが増えた。

 

プロレスは、非日常の空間を楽しめるイベント。人生模様が詰まっていて、かめばかむほど味が出る。食わず嫌いにならず、まずは見てほしい。魅力を分かってもらえると思う。

 

北山高駅伝部に20万円寄付

 

沖縄大会は毎年、「社会福祉チャリティー大会」として実施されている。第4試合の開始前、リング上で寄付金の贈呈式があり、新日本プロレス沖縄後援会と選手会から、北山高校駅伝部後援会に20万円が寄付された。

​(2019年3月10日 琉球新報掲載)

 

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