「お金がない」を連呼するアラフォー男3人が新たな挑戦 「きいやま」商店インタビュー
デビュー10周年を迎え、新たな挑戦に挑む「きいやま商店」の(左から)リョーサ、だいちゃん、マスト

 

石垣島出身の兄弟いとこ3人組バンド・きいやま商店。昨年8月には結成10周年を迎え、ことし5月にはコントに本格進出するなど、常に前を向き新たなことに挑戦し続けている。リョーサ(43)、だいちゃん(43)、マスト(42)の3人に、バンドへの思いやこれからの展望についてきいた。
(聞き手=小波津智也・琉球新報営業局プロジェクトチーム)

 

―2018年にきいやま商店は結成10周年を迎えました。おめでとうございます。結成のいきさつを教えてください。

 

リョーサ 2008年の夏、8月だね。俺が福岡に住んでいて、だいちゃんとマストは東京でそれぞれバンドやっていたんだけど、「リョーサ、お前は長男の長男だから帰ってこい」と家族から散々言われていて…。

 

―崎枝家長男。

 

だいちゃん じいちゃんばーちゃんから。

 

リョーサ ばーちゃんが特にさ。帰って来いと言われながらもなかなか帰らず。でも2008年、音楽も仕事も何もかもやめて島に帰ろうと決心したわけ。それで何とはなしに、ただ北海道・稚内に行こうとだけ決めたわけ。電車の「青春18きっぷ」で行くという。

 

―え、え、いくつの時に「18きっぷ」買ったんですか?

 

リョーサ 俺32歳。いいよそういうのは(笑)。青春さ、青春! 旅の途中で「最後に3人でバンドやろう」と、だいちゃんとマストに連絡して、「いいねー」って感じになって。それで東京で結成して、中野の小っさい居酒屋でライブ。それをやれたら俺はもう音楽をやめられるはずだと。

 

だいちゃん 40人くらいいた客はほぼ身内。家族や親戚が集まってくれた。一度きりのライブだったから。「どうするか、どんな名前にするか」ってなった時に、「ばーちゃんの店の名前でいいじゃん!」って安易な考えで「きいやま商店」になった(笑)

 

リョーサ 「どうせ一日だろ」って感じで。ノリさ(笑)。(ライブは)3人でやったこともなかったから、お互いのバンドの曲をやって。

 

―ちなみにライブの所要時間は。

 

だいちゃん 3時間くらい。

 

―何曲歌われたんですか。

 

全員 6曲くらい(笑)。

 

リョーサ ほぼしゃべる。

 

だいちゃん もうトークばっかり。何しゃべっていたかな。崎枝家のすべらない話をしていた。ライブ終わってアンコールがくるでしょ。何をしようかってなったら、曲じゃなく「あの話、しゃべって」って(笑)。

 

リョーサ そうしてライブが終わって一度解散したはずなんだけれど、いとこの結婚式とかで石垣に帰ったりしたときに3人そろうわけ。それで島でもライブをすることになって…。そしたら友達がいっぱいライブに来るわけ。「おまえたちフラーだな」って(笑)

 

マスト 同級生とかにも話題になっていたんですよ。「面白い」って。

 

リョーサ 「こんなのなかった」ってな。

 

そうしたら、急にCMソングが決まったんですよ。同級生から「きいやまの曲をCMに使いたい」って連絡が来て。それでレコーディングをすることになって。だいちゃんとマストはまだ東京に住んでいたから、俺が東京に行ったときにレコーディングして、6曲入りのミニアルバムを作ることになった。

 

マスト 「さよならの夏」ってタイトルで。

 

―ちなみにリョーサさんはその時どちらに。

 

リョーサ 俺、まだ福岡。

 

だいちゃん 全然島に帰らないわけ。

 

マスト 何だったら、今も帰っていない(笑)

 

リョーサ 「島に帰る」って言って北海道稚内まで行って、全然帰らなかった(笑)。

 

合宿最終日に見た景色

 

―そうして2010年、大庭学園のCM曲に採用されたんですね。

 

リョーサ 「『きいやま商店』って誰だ?」って結構反響が大きかったみたい。

 

だいちゃん ミニアルバムをきっかけにいろんなイベントに読んでもらったりして。八重山高校のOB会とか、全国の居酒屋を巡るツアーもやった。

 

マスト 口コミもあったよね。

 

だいちゃん ただ、まだきいやまを本格的にやろうということは全然ない。きっかけはマストさ。3・11、震災後だよ。

 

マスト だいちゃんがまさに3月11日に石垣に引き上げていて、俺はこの時ツアーで名古屋に。それで震災があったんだけれど、尊敬する音楽の先輩から連絡が来て「今は東京に戻らないで石垣島に帰ったほうが良い」って言われたんで、島に帰ったわけ。音楽の仕事が全部キャンセルになって、バンド活動もできないから、何かするわけでもなく1ヵ月くらい過ごしていて…。自粛ムードはあったね。ただ、こうした中でも、きいやま商店は逆にやったほうがいいじゃないかな、必要なんじゃないかなって思って。

 

あの頃、自分のバンドよりも、きいやまやっている方が音楽をやっているような気がしていた。曲も多くない。だけどコントやコメディもあって。それが楽しかった。思い切ってだいちゃんとニーニー(リョーサ)に電話して、「本気でやってみない?」「本島では俺ら全然知られていないから、本島で合宿しよう。3か月間」。そこから本気が始まった。「きいやま商店で紅白(歌合戦)行こう!」って。それで泊まるところ探して、合宿させてくれたのが今の事務所なんですよ。

 

リョーサ そのときちょうど2枚目のレコーディングをしていたわけ。合宿終了後には誰にも知られていないのに(ミュージックタウン)音市場を押さえるという無謀な計画を立てて。

 

マスト 最初は(沖縄)コンベンション(センター)の計画だった。でも空いていなくて…

 

だいちゃん あぶなかった(笑)

 

―合宿の3カ月間、共同生活をするわけですよね。

 

マスト 昼は曲作りや媒体の撮影とか、スーパーのイベントとかにも呼んでもらったり、いろいろやったな。

 

リョーサ 最初は売り込みかけていたけど、事務所にオファーの電話が来るようになるわけ。お客さんの反応はめちゃくちゃよかった。初めて見た人は「なんか変なのがいる、『じんがねーらん(お金がない)』って歌って面白いのがいるなー」という感じで(笑)

 

―なぜか分からずにみんなで踊りだしてしまう。

 

リョーサ だから、バーって認知度が広がっていくのが自分たちでも分かったから。

 

だいちゃん テレビにもいっぱい出たし。

 

リョーサ めっちゃ、メディアには出たね。あの時は。

 

マスト 3カ月だけどめっちゃ濃密だった。とりあえず音市場は満席にしたかった。期限は3カ月しかなかったからさ。

 

だいちゃん コザの中の町のスナックに行って、チケットの手売りもしたな。

 

マスト そうして合宿最終日が音市場のライブ…。満員!

 

だいちゃん 椅子は500席くらい用意したけど、結局600人くらい来て立ち見も出た。

 

リョーサ 合宿は3カ月と決めていたけど、実は3カ月以降もスケジュールが埋まってしまって。それで(島に)帰れなくて(笑)。

 

マスト 合宿がまだ長引いているわけよ(笑)

 

だいちゃん 島から那覇に出てきたら俺とマストはまだ一緒に寝ているから(笑)。

 

リョーサ 俺は結婚したから。それまでは一緒。

 

スパニッシュ系?!の日本代表

 

―合宿以降、沖縄の音楽シーンをけん引している印象です。考える暇もなかったかもしれませんが、大変だったことは?

 

だいちゃん あったかな。ピンチみたいなのはないね。

 

リョーサ ないね。マストが足骨折したくらいじゃないか(笑)

 

マスト スマホくらいの段差で転んだわけさ。レコーディングの休憩中(笑)。全治3カ月! 次の日からツアーだったけど、ずっとライブは続けていた。

 

だいちゃん 仕事いっぱいあったからね。

 

―苦しいことよりも、楽しいという感覚がずっと続いているんですね。

 

だいちゃん そう。

 

リョーサ だからさ、普通はまさか35歳くらいで合宿するか? みたいな感じだよね。自由だったんですよ。

 

―自由。

 

リョーサ そう自由。

 

マスト そうして本島で名前が知られると、沖縄好きの県外の方々にもきいやま商店が知られるようになって。そうした動きがじわりじわりと来て、県外のイベントにもばんない呼ばれるようになった。

 

―日本の文化を海外へ発信する「ジャパンエキスポ」にも日本代表のアーティストとして出演していますね。

 

リョーサ ベトナムとタイに。

 

だいちゃん 行ったねー。ベトナムでは五輪真弓さんやももいろクローバーZさんと共演しました。

 

リョーサ なんで俺たちなんだろうな。

 

―三段オチでいう、オチの役割でしょうか?

 

全員 おいっ!(笑)

 

リョーサ だけどきいやまが一番盛り上がっていたどー。

 

―言葉は通じたんですか?

 

リョーサ 全然通じない。俺らの言葉、内地でも通じてないさ(笑)

 

―そもそも歌詞が方言ですものね。

 

マスト だから怖いものはなかった。内地でもきいやまがあれだけ盛り上がっているからな。

 

だいちゃん 「ドゥマンギテ」とか完全にカッコイイって思っているんじゃないですか。

 

―ドゥマンギテ(びっくりして)なのに。

 

だいちゃん ウチナーンチュは絶対に笑う。

 

マスト 言葉は分からないけど、スパニッシュな感じのかっこいい曲と思っているんじゃないかな。

 

だいちゃん でも、県外海外どこに行っても「じんがねーらん」は受けるな! 「お金がない、お金がない」って言っているだけ。全世界共通。お金がないは。

 

マスト お金ないんだろうな(笑)。

 

リョーサ 「お金がない」ってバタバタしているからな。おじさんたちが(笑)。しかも島ぞうり履いて。

 

―皆さん、お金持っていなさそうですもんね。

 

全員 おーい!

 

リョーサ ないけどよ(笑)

 

―はははは。失礼しました(笑)。苦労よりも楽しいことばかりっていう感じですか?

 

だいちゃん 逆に、きいやまやる前の自分のバンドで頑張っている頃の方がきつかった。売れないバンドずっとやって。だからきいやま商店に救われた感が俺はある。

 

マスト 楽しくやるのが一番なんだよな。きいやまやって思ったのは、俺も自分のやっていたバンドで苦しかったんだなって。楽しいという感覚をきいやまでよみがえらせることができたというか…

 

だいちゃん なんか見えないプレッシャーみたいなものを感じていたのかもしれませんね。

 

―プレッシャーからの解放。それはやはり兄弟いとこで活動しているということもあるんでしょうか。

 

だいちゃん それが一番大きい。

 

リョーサ 自分らが楽しいから。子どもの頃お盆とか正月に集まった時、親戚の前で歌を歌ったりとか物まねしたりとか、3人でよくやっていたから。それが大人になっても一緒にできるという…。

 

「身内の笑顔」にこだわる

 

―あらためて、きいやま商店のこの10年間をどのように振り返られるでしょうか。

 

だいちゃん 本当にあっという間。目まぐるしく過ぎていったし、今まで経験できなかったことができ、たくさんの人々に出会えることができてよかった。本当に人生でギュッと詰まった10年間でした。

 

リョーサ 社会人になるとお金を稼がないといけないから、あきらめることもあるけど、音楽でやりたいことがやれて飯を食えるようになった。だから、やりたいことや好きなことを一生懸命にやれば思い通りというか、なりたいようになれるんだなって…。やりたいことがやれるようになった10年間。

 

マスト 音楽をやり続けて準備期間を終えた10年間かなって感じかな。いろいろ試して、きいやま商店にどんな音楽が合っているかが分かったと思うし、これからスタートする、今からどんどん行くぞという素地ができた。それがこの10年間。これからもっと面白くなる。本当にいろいろやったさ。やったこともないことも挑戦して、これは合わないとか…。

 

―スベるようなものあった?

 

だいちゃん 真面目な感じのやつ。真面目でカッコいいのが一番面白くなかった。俺ら(笑)。

 

―真面目でカッコよくて、ちょっとモテたいという感じでしょうか…。

 

だいちゃん そうそう。あとは世の中に寄せた曲にしたりとか。結果的には、そうしたらダメなわけよ。これは考えたね。世間に寄せた曲が一番面白くないし恥ずかしい(笑)。一周して、やっぱり自分なんかが一緒にやっていた、身内を笑わせる、おっとうおっかあ、友だちを笑わすようなものが一番俺ら面白いな。そんな曲がお客さんも笑わってくれるし楽しんでくれることが分かった。これから先、生まれてくる曲はもっともっと面白くなっていんじゃないかなと思うさー。

 

―身内を笑わせられないと、他人も笑わせられないってことですね。

 

リョーサ 身内にしか通じないだろうという歌でも、全然知らない人たちがそれを聞いて、自らに置き換えて楽しんでくれれば、それでいいなって思うよ。

 

―きいやま商店として新たにどのような一歩を踏み出していこうと考えていらっしゃいますか?

 

だいちゃん 僕らユーチューバーになりました。元旦からね。「きいやまTV」というチャンネルを作って。

 

リョーサ 43歳のユーチューバー(笑)。俺たちのこと知らない20代の人たちにも知ってもらいたいよな。新たな挑戦。

 

―リョーサさんやマストさんはソロ活動にも力を入れていますね。ソロの成果をきいやまにフィードバックしてきたいという思いもあるんですか。

 

マスト そうできたら一番いいね。もともと3人がバラバラで活動してきたからこそ、きいやまは面白いと思う。ソロでパワーをためて、きいやまに還元していきたい。いろんな経験がきいやまにもつながると思う。

 

だいちゃん 僕はもうソロで音楽はしません。別で決まっています…。それは怪談ライブ!

 

―怪談ライブ?!

 

だいちゃん オカルトが好きで、趣味で毎日怪談聞いて寝ているわけ。

 

―寝られます?

 

だいちゃん めちゃくちゃ寝られるよ(笑)

 

リョーサ だいちゃんは、本当に昔からUFOとかオカルトとが好きで。「呪いのビデオ」とか、だいちゃんから習ったってばー。俺たち小学校6年の時にミステリーサークル作ろうということになったんだけど…誰にも気付かれない、最悪のパターン。作ったのに誰の話題にもならなかった(笑)。

 

だいちゃん 浅草の知人のバーを押さえたんで。ぜひやりたい。ツアーも実現させたいね。

 

不安は3等分

 

―2019年、きいやま商店として最も大きなチャレンジと言えるのが、コントへの本格進出ではないでしょか。

 

リョーサ 俺たちは結成当時からドリフターズになりたいと思ってやってきた。でも結成から10年たつけど、実現させることができなかった。吉本興業さんの沖縄新喜劇に出演して、石垣での公演後に決めました。きいやまがドリフに挑戦!

 

だいちゃん 5月に大阪で2DAYS! 本当に3人ともドリフが大好き。でも、「本格的にやらないか?」って話を出したのはリョーサ。それに新喜劇の作家さんが乗ってくれて。オープニングは自分たちで演奏して。コントに音楽にライブを付けたい。融合ですね。

 

リョーサ お客さんとは絡みたいな。

 

―ドリフのコントのように「リョーサ、後ろ!」みたいな感じですか。

 

だいちゃん やりたい。

 

リョーサ やりたいね、それ。がっつり舞台セット組んでもらってね。

 

マスト ドリフでも舞台、コントあってアイドルの歌があって、アイドルと絡んでのミニゲームがあって、みたいな。早口言葉ゲームとかあったりしてね。きいやまバージョンみたいなのやりたいな。

 

だいちゃん むしろこれが番組になってほしい。

 

リョーサ だからよ。琉球新報さんでできないかな。

 

―頑張ります(笑)。

 

マスト 番組できる気がするな。

 

―公演の結果次第で、さらなる展望が見えてくると思います。自信のほどは。

 

だいちゃん、リョーサ 不安しかない。

 

だいちゃん 音楽だったら自信あるけどな。コントは。やっぱり初めてやることは不安だらけです。

 

マスト だけど、やっぱりやりたいと思っていることをやるので、もちろんワクワクはしています。

 

―きいやま商店はやったことないことをデビュー以来挑戦し続けていて、不安を面白い楽しいに変えている印象です。

 

マスト 3人いるから、大丈夫なんだと思う。

 

―不安も3等分。

 

だいちゃん 失敗しても笑いに変えられますから。へへへ。

 

リョーサ そのハプニングがいいよな。

 

だいちゃん きいやまはハプニングだらけ。

 

マスト 3人いるから誰かがカバーしてくれるだろうってな(笑)。

 

だいちゃん ほったらかされてもそれが笑いになる。でも、だいたい俺がほったらかされる側。

 

リョーサ それでだいちゃんが「おい!」ってな感じでツッコむとウケて盛り上がる(笑)。

 

だいちゃん こっちはもうその瞬間、大至急島に帰りたくなりますけどね。

 

だいちゃん でも本当にコント楽しみだよ。マジどうなるんだろうな。

 

マスト 成功はさせないと!

 

―まさに最大の挑戦という感じですね。

 

マスト 変わったこと、違ったことができるからね。

 

だいちゃん これが成功したらまた来年、再来年と。

 

リョーサ 本当に沖縄でコント番組やりたい、音楽とコント。これマジでできたらやっばいよなー

 

―新たなスタートアップを始めたきいやま商店の皆さんから、読者へのメッセージをお願いします。

 

マスト きいやま商店も新しいこと始めようと思っていますけど。挑戦して損は絶対にない。守りに入らずにどんどんチャレンジしていった方が人生得すると思います。

 

だいちゃん スタートするとか、チャレンジするって堅苦しくて動き出せない人っていっぱいいると思います。僕もそうだった。でも、「これやりたいなー」と思ったら実行する。それが大切と思う。好きなこと、今やってみたいことを決めて、始めてみればいいじゃないかな。

 

リョーサ きいやま商店を始める前までは「やりたいなー」だけで行動に移せていなかった。実際にきいやまで活動して、やっぱりやりたいと思ったことは行動に移すことが大事。実行することで見えることもある。最近同級生が亡くなって、本当にいつ人生終わるか分からない。後悔するのはもったいないからね。小さなことでもいいから、勇気をもって一度挑戦してほしいですね。

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