国際社会が進めるSDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、地域や社会をよくしようとする企業や自治体の活動が活発化してきた。一方、県内では多くの課題がいまだ解決されていない。SDGsの理念にある「誰1人取り残さない」「持続可能な未来」の実現へ必要なものは何か。連載企画「SDGsで考える 沖縄のモンダイ」は、記者が現場を歩いて現状を報告し、沖縄大学地域研究所と大学コンソーシアム沖縄の協力で、学識者に解決への道筋を提言してもらう。2回目は沖縄の経済を支え、人数が増加し続ける外国人労働者について考える。
「喜びを歌い、感謝の歌を神様にささげよう。ハレルヤ」。5月初旬の日曜日、沖縄市のカトリック泡瀬教会の信者らは礼拝で、ミサ曲を斉唱した。教会内では大半が年配の地元信者だが、後ろの席には30代前後のベトナム人男性らの姿も見られた。
彼らは、教会周辺の建設関係会社で働く外国人技能実習生たちだ。週1日の貴重な休みを使い、教会を訪れる理由は、祈りのため以外もある。礼拝後、同じベトナム出身のブイ・ドゥック・ユン神父(43)の自宅で、同郷者の集まりに参加するためだ。長年、故郷の台湾を離れて沖縄で生活する記者には、同郷者との集まりの大切さに共感した。
礼拝後、ベトナム人一行はブイ神父の自宅に移動し、昼食の支度を始めた。初めて参加する記者に、男性たちは親切に飲み水を出し、くつろぐように呼び掛けた。その後、男性たちは沖縄での切実な境遇を取材に語った。
ある男性(38)は2019年、来沖した。出稼ぎのため、母国の銀行から日本円で約120万円相当の額を借金した。3月下旬、建設現場の業務中にけがをした。会社の職員と一緒に近くの病院に駆けつけたが、医者に大丈夫と判断され、錠剤だけをもらって帰らされた。だが、男性は骨折のような痛みを感じ、約3週間働けなかった。その間、会社側は彼がうそをついていると断定し、一方的に「早くやめろ」と脅迫されたという。
男性には味方がなく、唯一の相談相手はブイ神父だった。「仕事は大変なのに、毎日頑張っている。けがしたら、会社は何も慰問せず、本当にひどい」。男性は憤った。
実際には、ベトナム人労働者の全てがひどい目に遭っているわけではなく、親切な雇い主に恵まれた人もいた。ディン・バン・モンさん(30)は15~18年まで、県内で技能実習を経験し、20年10月に再び専門的・技術的分野のビザでエンジニアとして来沖した。
ディンさんは「社長はとてもやさしい。思いやりがある人だ」と絶賛した。その上でこう付け加えた。「どこにも、いい人がいるし、悪い人がいる」
ブイ神父は「私は彼らの問題を解決する力を持っていない。彼らの話を聞くことや、ごちそうを食べさせることしかできない」と語った。ベトナム人技能実習生がより安心・安全に県内で暮らせるよう、ブイ神父は提起した。「行政にぜひ調査団を作ってもらいたい。ベトナム人労働者の生活環境や所在を常にチェックしてほしい」
無料相談窓口 開設訴え
大型連休中の5月初め。例年なら、観光客などの往来でにぎやかになる本部町は静かだった。人通りがほとんどない町立公民館前に、日が暮れるにつれ、自転車でベトナム人の若者たちが集まってきた。
彼らは観光客ではなく、留学生でもない。外国人技能実習生であり、一般県民と交流する機会も少ない。集まった理由について、「日本語の勉強」と口をそろえた。
午後6時過ぎ、次々と教室の席に座った。将来ベトナムで日本語教師を目指す名桜大学4年生の永松未有さん(21)が教壇に立ち、動詞の使い方について「やりたいことを仕事にする」「習ったことを復習しましょう」と丁寧に説明した。時折、ベトナム語での説明が飛び、技能実習生たちは真剣なまなざしを見せていた。彼らの姿に、記者も15年前に日本語能力試験1級に挑戦したことを思い出した。
7月に開催予定の日本語能力試験に向け、ベトナム人技能実習生は毎週土曜日、同公民館で日本語の勉強を続けている。主催者は、来県20年を超える名桜大学非常勤講師で、ベトナム出身のグュェン・ド・アン・ニェンさん(45)だ。無償の日本語サークルを始めたきっかけを振り返った。「当初、ベトナム人技能実習生から、もっと日本語を勉強したいという強い要望があり、沖縄の先輩の気持ちで活動をスタートさせた」
受講生の1人で、来沖2年となるタ・チュン・キェンさん(23)は「日本語をもっと知りたい。日本人と話せるようになりたい」と受験の動機を語った。タさんは北部のホテルで客室を、宿泊客が少ない日はホテルの周りを清掃しているという。毎月の休日は6日だけ。移動手段も自転車しかない。「沖縄の観光地は分からない」と退屈な生活ぶりをうかがわせた。生活で困ったことがあれば誰に相談するかと質問すると、「誰にも相談せず、寝込む」と寂しい顔で答えた。
日本語サークルを始めた後、グュェンさんに技能実習生から多くの悩み相談が寄せられた。「役所の通知書が読めないことをはじめ、会社とのトラブルまで、いろんな相談がある。私個人のレベルでは限界がある。外国人労働者が訪問しやすい場所で、無料相談所をぜひ開設してほしい」と訴え、技能実習生を含めた外国人労働者の代わりに声を上げた。
用語
外国人技能実習制度 外国人を日本の企業や農家などで受け入れ、働きながら習得した技術や知識を母国の発展に役立ててもらう制度。1993年に創設された。技能実習生は製造業、建設業、農業、介護など対象となる職種の実習先で、最長5年働くことができる。
県内外国人労働者 2020年10月末時点の県内外国人労働者数は、前年比4.5%増の1万787人で過去最多となった。在留資格別では「技能実習」が28%の3024人と最多だった。「技能実習」の国籍別では、ベトナムが1905人と最も多く、次いでインドネシアが510人などだった。外国人労働者の雇用が進む一方、19年には技能実習生を雇う県内49事業所のうち、39事業所で労働時間や賃金に関する労働関係法令の違反があった。
県民との交流 支えに 吉井美知子氏(沖縄大教授)
長年、ベトナムのストリートチルドレンの支援に携わる沖縄大学人文学部の吉井美知子教授は、県内のベトナム人技能実習生も援助する。「彼らは技能・技術研修の名目で来日しているが、実際には国内の人手不足を補うためだ。任されている仕事のほとんどが掃除で、技能実習とは名ばかりだ」とくぎを刺した。
技能実習生は、日本人が嫌がる、きつい、汚い、危険の3K労働に従事することが多い。農業や養豚場、水産加工などの分野に従事し、一般県民と直接やり取りする機会が少ない仕事ばかりだという。
吉井教授は「彼らの仕事はきつく、ハラスメントも多発している。日本語が分からないので、どこに訴えていいかも分からない」と技能実習生が置かれた過酷な現状を説明した。また「受け入れ側は、当たり外れが多い」と指摘した。
県外では、技能実習生を支援する民間非営利団体(NPO)が設置されているが、県内では個人レベルでの支援にとどまる。その1人である吉井教授はこう提言する。「技能実習制度は完全に機能していない。制度をすぐに変えることもできないので、せめて彼らが帰国するまで沖縄で楽しい思い出を作ってほしい。地元との交流ができれば、さらにいい」
取材の現場から
過酷な環境で働く彼らは取材に応じてくれないかと心配したが、全員に快く受け入れてもらった。外国人労働者の1人でもある記者は、取材を通して、少しでも彼らを手助けしたい気持ちになった。
(呉俐君)
SDGs(持続可能な開発目標)は2015年、国連サミットで採択された国際社会の共通目標。環境問題や貧困などの人権問題を解決しながら経済も発展させて持続可能な未来を創ろうと、世界中で取り組みが進められている。