「フィフスは大会期間中、自分のコンディショニングに加えて、夜遅くまでアイスの状態などを把握するナイトプラクティスに参加したりと、すごく重要な役割です。琴美ちゃんは人生経験もキャリアも豊富で、精神的にブレないし、責任感も強い。私たちの手本であり、代わりがいない存在なんです」
しかし、この本橋からの打診を石崎は3度も断っている。前出の故・阿部周司さんを父に持つコンサドーレの阿部晋也選手(42)はその心情を推し量る。
「世界のトップクラスからのオファーはうれしかったはずです。でも、どんなに練習を積んでいても、僕や琴美の年齢でフィフスの役割をこなすには不安がある。決断は難しかったと思うんです」
しかしロコのメンバーは石崎が首を縦に振るまで諦めなかった。1月16日に行われた女子日本代表の会見で、石崎はこう語った。
「できあがったチームに入る不安に、とてつもない覚悟が必要で、断ったほうが楽だったでしょう。でもみんなが何回も告白してくれて、それがあまりにもうれしくて、いまこうして、ここまできました」
石崎が勤務する、松田整形外科記念病院理事長の菅原誠さん(72)がこう話す。
「石崎は現役を続けたくて練習を継続していたところ、ロコからの打診があった。でも業務に支障が出ることを彼女は懸念しました。私が『どうぞ、安心して行ってらっしゃい』と言うと、『本当によろしいんでしょうか』と神妙な表情を浮かべていました」
昨年9月、五輪日本代表を決めた直後の場内インタビューでは、5人のほほ笑ましい光景が見られた。
「選手として私を送り出してくれた所属先に、感謝の気持ちでいっぱいです……」
石崎が涙声でこう話していると、なぜか隣の知那美が割って入り、
「松田整形外科のみなさん、本当にありがとうございました!」
と泣きながらお辞儀。あとの3人は追いかけ、笑顔で一礼した。
「ロコらしいし、彼女たちの本心でしょう」と阿部選手が続ける。
「琴美が背中を見せることで、みんなが『自分も頑張らなきゃ』と思える。気持ちが通じ合えているのが、いまのロコだと思います」