侍ジャパンの知られざる奮闘34日間 トレーナー・河野さんが明かす翔平、ダルビッシュの素顔
画像を見る 第1回から今回まで5回すべてのWBCにトレーナーとして帯同した河野さん。左手に持つのは1・2回大会の優勝リング

 

■「大きくなったねえ」河野さんがトレーナーとして肩をさわったら、翔平は喜んで

 

河野さんの参加には、WBCならではの事情があった。

 

「WBCでは、NATA(全米アスレティックトレーナーズ協会)の資格を持つATC(最難関資格の公認アスレティックトレーナー)がベンチにいなければならないという決まりがあり、私はその資格を持っています。

 

逆に、ATCのいない国のチームでは、WBCのルールにのっとり、WBC側からATCが派遣される。まったく知らない人がベンチにいることになり、その時点でチームはまとまりに欠けがちになりますよね」

 

侍ジャパンの鉄のチームワークは、裏方も含めメンバーの招集時にすでに固まっていたわけだ。

 

河野さんは、宮崎キャンプで積極的に若い選手たちに話しかけるダルビッシュ投手を見て、思わず声をかけた。すると、

 

「自分が持っているものは全部伝えたいし、聞かれたことには全部答えたいんです」

 

もっと驚いたのは、続いて発せられた言葉だった。

 

「僕自身もまだまだ成長したいんで」

 

河野さんは言う。

 

「実際に、若手のトレーニング法も注目していました。同じ投手の山本由伸選手(24)がやっていた骨盤の調整を試してみたいとも。

 

ダルビッシュ投手だけではなく、すべての選手がアスリートとして自立していたので、ある意味、特別な指導は不要な、手のかからないチームでした」

 

ただし、個人的には、さまざまな依頼が届いた。たとえばダルビッシュ投手から、トレーニング用のメディスンボール(砂の入ったボール)について、

 

「『3kgと4kgが欲しい』と言われましたが、こちらは移動も考慮して3kgしか用意していなかった。すると彼は『それで、いいです』と言いましたが、ここで、どうしても4kgが必要ならば、私たちはトレーナーとしてなんとか手を尽くし用意するわけです」

 

こうした本来の役割に加えて、トレーナーチームは、グラウンドの球拾いなども手伝ったという。

 

「プロ野球の公式戦ならば、各部門の専門スタッフもいます。しかし、WBCでは球場には52名しか入れないんです。うち選手が30名、監督やコーチが8名。つまり残りの人数でいろんなことをやらなければならない。

 

トレーナーの一人は、バッティングピッチャーもやったり、みんながマルチに働いていました」

 

やがて3月に入ると、MLBから、いよいよ大谷選手やラーズ・ヌートバー選手(25)も合流。

 

大谷選手は今回トレーナーを帯同しておらず、これまで何度か代表で一緒だった河野さんに、「お願いします」と声がかかった。

 

久しぶりに顔を合わせて、

 

「相変わらず、トレーニングはやってるの?」

 

そう河野さんが尋ねると、

 

「はい。トレーニングは好きです。これから30歳を過ぎると体力も落ちてくると思うので、それ以降もより高い技術を使いこなせるだけの体を作るためのトレーニングを今は心がけています」

 

と、実に大谷選手らしい論理的な答えが返ってきたのだった。

 

「まあ、たしかに、私も見ましたが、さらにひと回りも体が大きくなっていました。トレーナーとして、思わず『大きくなったねえ』って言って肩をさわったら、翔平は喜んでましたが(笑)」

 

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