《シリーズ人間》山本由伸「号泣のマウンド」「信念が『全てに感謝』の理由」恩師&同級生ら8人が全実名回顧
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■「由伸は勉強家で引き出しが豊富。悪い点をすぐ修正できる珍しいタイプ」(能見さん)

 

由伸は自分の感覚と対話しながら、新たな理論を取り入れる柔軟さを持ち、正しいと思えば、意志を貫く剛胆さも兼ね備えていた。その結果、この年は中継ぎとしてチームに貢献。遠征先で試合が終わると、同期入団の同級生・榊原翼さんは由伸と遊びに出かけた。

 

「2人でよくすし店に行きました。一度、90貫近く食べたんですよ。途中、店員さんから『今、80貫ですけど、お会計大丈夫ですか?』と心配されました(笑)。当時は由伸もそこまで稼いでなかったので、支払いは割り勘でしたね。アイツはイカが好きなんですよ」

 

オフの契約更改で、推定年俸は800万円から4千万円に上昇。翌’19年、先発に転向して最優秀防御率のタイトルを獲得すると、9千万円に跳ね上がった。

 

「そのころですかね、遠征中に由伸の友達含め、男3人でカラオケに行きました。また、店員さんが『お勘定が数万円になっていますが、支払いは大丈夫ですか』と(笑)。あまり歌わず、お酒ばかり飲んでいた。由伸は『ぜんぜん大丈夫です。まだまだいけます』と言って、最後は全額払ってくれました」

 

由伸は球界屈指の投手に成長していき、’21年には初の開幕投手を任される。その試合前、阪神から移籍してきた能見投手兼任コーチはブルペンで異変を感じた。

 

「責任や緊張からか、めちゃくちゃ力んでいて、ボールの質が悪かった。でも、不安を与えるより、いいイメージで送り出してあげたい。だから、何も言いませんでした」

 

予感は当たり、西武打線にノックアウトされた。翌日、能見さんが「力みまくってたから、打たれると思った」と打ち明けると、由伸は「言ってください」と懇願した。

 

「試合前に指摘してほしくない投手が多いなか、珍しいタイプです。それから何か気づけば、言うようにしました。由伸は勉強家で引き出しが豊富なので、悪いところをすぐに修正できる」

 

この年、由伸はタイトルを総なめにして、チームを25年ぶりの優勝に導く。上昇カーブを描く同級生に対し、榊原さんは下降線をたどった。悩みを察知した由伸は「ウチ来るか?」とよく誘った。

 

「僕には『酒飲みすぎるなよ』『もっとしっかりしろよ』と叱咤が多かった。でも、いつも気にかけてくれるので、由伸の言葉はほかの人の何十倍も響きました」

 

中道さんがオリックス退団後、焼き肉店で働いていたころ、由伸が不意に訪れた。

 

「(本拠地の)京セラドームから時間かかるのに、わざわざ食べにきてくれました。焼き肉は好きみたいですね。この前も、滋賀県のおいしい焼き肉屋さんの食材の写真を送ったら『どこ? 行きたい』と返ってきました。『滋賀県』と書いたら、『遠い。やめとく』って(笑)」

 

どんな大投手になっても、由伸の性格は変わらない。

 

「普通、これだけの成績を残すと、周りから助言されても、自分に合うかすぐ分析できるので、聞かなくなります。でも、由伸は違う。ちゃんと話を耳に入れて、いったん受け止める。必要であれば取り入れるし、相手に邪険な態度を絶対に取らない。だから、みんなに好かれるし、尊敬されるのだと思います」(能見さん)

 

’23年12月、由伸はドジャースにメジャー投手史上最長となる12年契約で入団。翔平の同僚となった。会見では「勝ち続けられる球団でプレーしたい」「たくさんの方のおかげで今、僕はここにいることができています。今日からは本当の意味で(メジャーに)憧れをやめなければいけません。自分自身が、憧れてもらえるような選手になれるよう、頑張ります」と話した。

 

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