「年金生活者の私たちにとっては“野垂れ死ねばいい”と言われているようなもの。もうすぐ70歳になる妻は片頭痛と腰痛を抱え、毎月の医療費は6万円ほど。このままでは、医者にかかることさえ難しくなるでしょう」(72・年金受給者の男性)
11月30日、厚生労働省が検討している医療費抑制のための“見直し案”が示された。70歳以上の高齢者への負担増を求めるメニューがずらりと並んだこの見直し案について、ファイナンシャルプランナーで慶應義塾大学大学院の加藤梨里特任助教は、次のように解説する。
「平成27年度の『国民医療費』は41兆5,000億円で、人口1人当たり平均32.7万円。しかし、75歳以上になると94.8万円になり、開きがあります。これまで与党は選挙において“大票田”の高齢者に気を使って、若い世代を中心に負担を増やしてきました。ところが、今回の“見直し案”では、珍しく高齢者に対しても大きな負担を強いてきたのです。これには驚きました」(加藤助教・以下同)
検討されている制度の変更案には、毎月の医療費の自己負担に上限を設けている「高額療養費制度」において、’17年8月から、70歳以上の人の限度額を年収に応じて引き上げることが盛り込まれている。
「年収370万円未満の70歳以上の人たちが病気やケガで入院した場合、現在の『高額療養費制度』だと、約4万4,000円以上かかった場合は、超過分が返金されるシステムですが、その上限が約5万8,000円にまで引き上げられます。さらにインパクトが強いのが“外来特例”が廃止されることです。病院に行く機会が多い高齢者にとっては大きな負担に感じるでしょう」
この“外来特例”とは、病院の外来で支払った自己負担分について月額の上限をもうけた制度のこと。年収370万円の70歳以上の人の場合、病院窓口での支払いが月額1万2,000円を超えた分は、返金されるという特例措置だ。
「この優遇措置の縮小により“外来特例”の上限額が2倍の2万4,600円に引き上げられます。さらに’18年には“外来特例”の廃止まで検討されています。その場合の高齢者の自己負担の上限は、5万7,600円になります。現状より月4万6,000円もの負担増になります――。病院に通っていた高齢者のなかには、今回の受診料の増額をきっかけに“受診控え”をする人も出てくるでしょう。本来ならば受診が必要なのに、病院に行かずにいると高血圧や糖尿病などが悪化していって……。つまり、将来“孤独死”が蔓延する可能性さえ出てくるのです」
そして、厚労省の方針は、「年収370万円以上」の70歳以上の高齢者に対して、おしなべて69歳以下と同水準にしようとしているのだ。
「これまでは、1,000万円以上の収入がある高齢者でも、100万円の医療費がかかっていながら、外来の自己負担は4万円ほどで済んでいました。私も、そんな優遇措置が見直されたことは理解できます。しかし、なぜ“年金暮らし”で、ギリギリで生活している人たちまで狙い打ちにするような案を出してきたのか、理解に苦しみます」