「年間約5万人が亡くなり、部位別のがんによる女性の死亡原因でもトップとなった大腸がんの増加と、現代人の腸内環境の悪化は関係しています。健康のためには、腸内環境を整えることが必須。その“救世主”となるのが乳酸菌なのです」
そう指摘するのは、大腸内視鏡検査で5万件以上無事故の腕を持つ、大腸専門医で新宿大腸クリニック院長の後藤利夫先生。後藤先生は“大腸がん撲滅”を目標に、腸内細菌と乳酸菌を研究。乳酸菌の持つ力に着目した著書『乳酸菌がすべてを解決する』(アスコム)をはじめ、乳酸菌を取り入れる健康法を提唱している。
「“腸は第二の脳”といわれますが、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンも、8〜9割が腸で作られています。この分泌が少ないと腸が動かなくなり、便秘という腸の“うつ”状態になる。逆に腸が動きすぎて起こる下痢は“そう”状態。過敏性腸症候群の原因にもなります」(後藤先生・以下同)
セロトニンの分泌異常が起こると、心も体も調子が悪くなる。
「乳酸菌の整腸作用はこうした不調を軽減してくれます」
腸内環境の悪化によるいちばんのダメージは免疫力低下だと後藤先生。さまざまな病気やアレルギー症状を引き起こしたり、“死の四重奏”と呼ばれる、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症のリスクが高まることも……。
「現代人が抱えるさまざまな悩みに乳酸菌は有効です。大腸がんの予防だけでなく、生活習慣病をはじめとした体の不調も解消してくれる万能パワーがあるのです」
では乳酸菌とは、そもそも何なのか? 後藤先生に解説していただこう。
「“腸内フローラ”と呼ばれる腸内細菌の集まりには、私たちの体を守る“善玉菌”、増えすぎると悪影響を与える“悪玉菌”、どちらかの味方をする“日和見菌”の3種類がいます。そして、善玉菌の中で、いちばん大きな勢力を占めているのが乳酸菌なのです。腸内フローラを構成する菌の多くは、赤ちゃんのときに母から受け継いだもの。3歳ごろまでには、その構成の原形ができあがります」
それからは善玉菌と悪玉菌の縄張り争いが続いていく。
「増減がいちばん激しいのはビフィズス菌で、乳児期には100億以上いた菌が、加齢とともに減少し、50代には約1億個と、100分の1まで減少してしまいます。だからこそ乳酸菌を取り入れて、善玉菌を増やすことが、健康のために必要なのです」
ここで後藤先生、「ところで」と前置きしてーー。
「驚かれるかもしれませんが、『乳酸菌』という特定の“菌”は存在しません。乳酸菌とは、糖類を分解して多量の乳酸を作る細菌の総称なのです」
また、乳酸菌と、スーパーなどでよく目にするビフィズス菌は、じつは“別もの”であると後藤先生。
「乳酸菌には棒状の“乳酸桿菌”と、丸い“乳酸球菌”の2種類があり、おもに微量の酸素がある小腸にいます。一方、ビフィズス菌はV字やY字形。酸素が苦手なため、生息しているのは酸素のほとんどない大腸です。ただ、どちらも腸内環境を整える“善玉菌”ではありますので、ビフィズス菌も乳酸菌の“仲間”と考えていいでしょう」
大腸にいるビフィズス菌は、腸内を酸性に保つ働きをして、便通を改善。小腸にいる乳酸菌は、免疫細胞を助け、免疫力アップをサポートーーと、それぞれに活躍する分野も違っている。
「また、乳酸菌にもビフィズス菌にも、たとえば“ビフィドバクテリウム属・ロンガム種・BB536株”といった具合に、菌属・菌種・菌株で分類された正式名称があります。そして菌属には十数種類、菌種には何百種類、菌株にいたっては何千種類もある。それらの研究を進めた結果、『どんな体の不調のときに、どの菌を取ればいいか』が、どんどん明らかになってきています。最近、ヨーグルト製品によく菌種や菌株の名前がついていますが、その菌に効能があることが、データで実証されているのです」