いま「歌舞伎役者の中村勘三郎さんはがん治療で殺された」など、センセーショナルな発言で注目されている慶応大学医学部放射線科講師の近藤誠先生。

 

「近藤先生の理論を要約すると、がんと診断され手術を受ける腫瘍には本当はがんではないがんもどき(がんではないので放置しておいて大丈夫)と本物のがんが混在している。本物のがんはいくら切除してもまた転移して治らないから外科手術は体を傷つけるだけ無駄。どちらにしても、放置しておくのがいちばんよいというもの。がんと共生するという考えです」

 

こう語るのは作家で神経内科医の米山公啓先生。近藤先生とは過去に対談したこともあるという。

 

「確かに、一部のがんには当てはまるかもしれませんが、すべてのがん患者に、近藤先生の理論が当てはまるとは思えません。たとえば早期の胃がんは取ってしまえば必ず治ります。もしそれががんもどきだったとしても、最新のITナイフで行う内視鏡手術なら、胃を切ることもなく負担は小さい。それでがんかもしれないと一生不安に思って生きるよりずっとよいと思います」(米山先生)

 

同じ放射線医として、近藤先生の若いころを知るメディポリスがん粒子線治療研究センターの菱川良夫先生は言う。

 

「『治療するな』は極端ですね。選ぶのは患者本人。放置もひとつの手段ですが、それだけが選択肢ではない。がんと診断されていちばんよくないのは医師の言われるままに手術してしまうこと。それで治らなかったら、医師の言われるままにしたのに、と後悔するでしょう。まずいろいろな治療(放置も含め)を医師に聞き、患者本人が選択することが大切です」

 

またがんもどきについて、静岡がんセンターの小野裕之先生は、「ある程度の期間、悪くならないがんはあるが、長い目で見ると、がんもどきふうでも必ず悪くなっている。この分け方は科学的ではない」と否定的だ。

 

「近藤先生のお話は少し古いのではないかな」というのは、姫路医療センターの宮本好博先生だ。

 

「転移したがんは本物のがんだから、どの道助からないとおっしゃってますが、実際、大腸がんから肺に転移した患者さんを何人も手術していますが、治った人が多数います。治らないから放置するというのは早計でしょう。現在のがん手術は、近藤先生が知るよりかなり進歩していると思いますよ」

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