「先日の地震は、東日本大震災の余震です。過去の事例を見ると今後100年、余震は続くでしょう」と話すのは、地震学者の島村英紀氏だ。11月22日に起きた、福島県沖を震源とするマグニチュード(以下M)7.4の地震。6年前の原発事故の悪夢が、再び頭をよぎった方も多いだろう。2日後の24日にはM6・1の余震が続いた。
「今後、M8レベルの余震が、いつ起きてもおかしくありません。震源が浅ければ、東日本大震災を越える津波がくる可能性も否定できません」(島村氏)
そうなると心配なのは、廃炉作業中の福島第一原発だ。元東京電力の社員であり原発で作業員の指導や放射線管理者を務めたこともある桑原豊さん(59)は、原発が再び“暴発”する危険についてこう警鐘をならす。
「心配なのは排気筒の倒壊。中に溜まっている100兆ベクレル(※)以上とされる放射能に汚染された粉じんが、大気中に一気に噴き出します」
排気筒とは、原発から出る排気を環境中に安全に放出するための設備。倒壊のおそれがあるのは、1号機と2号機の間にある高さ約120メートルの排気筒だ。原発事故の際、この排気筒から高濃度の放射性物質を含む蒸気を放出(ベント)したため、現在も内部は高濃度で汚染されたままなのだ。
この排気筒を支えている骨組みの溶接部分5カ所(地上66メートル付近)が破断、さらに3カ所が変形していることが、東京電力の調査により13年に判明した。それ以来大きな地震がくれば、倒壊するリスクが懸念されてきた。
「日々、海からの潮風にさらされることでサビが増え、腐食は進んでいると思います。早急に補強工事をすべきなんですが、排気筒周辺は放射線量が高すぎて人が近づけないんです」(桑原氏)
東電の発表によると、11年8月時点で排気筒の配管付近の地表面では、最大、毎時25シーベルトが記録されている。人間が一瞬でも浴びたら、約20分で死に至るほど高い数値だ。もし、この排気筒が倒れたらどうなるのか。
「当然、所内で働いている作業員は、排気筒から出た高濃度の放射性物質が付着した粉じんを吸い込んで内部被ばくをします。さらに、その粉じんが風に乗って遠方まで飛ばされたら、人や土地、農作物が再び広範囲で汚染されるおそれもあります」
さらに深刻なのは、排気筒倒壊が原発施設内に与える影響だという。
「排気筒が倒れるときに20メートルほど先にある1号機や2号機の原子炉建屋を直撃して、破壊されてしまう可能性があるんです」と桑原氏は懸念を示す。そうなるとさらに大量の汚染粉じんが舞い上がることはもちろん、使用済み燃料プールが破壊される怖れもある。
「建屋内には、それぞれ約500~600本の使用済み燃料が保管されている使用済み燃料プールがあります。プールの破損によって水がなくなると、使用済み燃料を冷やせなくなります。そうなると使用済み燃料の周りを覆っている被覆管が溶け始め、核反応が進む可能性も否定できません。大量の放射性物質が大気中に放出される危険性も出てきます」(桑原氏)
放射性物質が拡散する最悪の事態を招きかねない排気筒の倒壊。東京電力はどのような対策をとっているのか。広報担当者に問い合わせたところ、以下のような答えが返ってきた。
「解析モデルで耐震性を計算した結果、破断がなかった場合、東日本大震災レベルの地震動600ガル程度に対する安全性が確保されていることを確認しています。(破断がある)現状でも、同程度の地震動に耐えられることを確認しています」
なんとも矛盾した答えだが、東電は、破損が進んでいないかを年に一回、望遠レンズを使って“目視”で確認しているという。
「今のところ、大きな変化はありません。(倒壊などの)影響はない。そうは言っても高い建物なので……。比較的放射線量の低い上層部分のみ、18年度から解体していく予定です」
やはり、リスクが大きいことは認識しているのだ。こうした状況を踏まえて、前出の桑原さんは最後にこう語った。
「再び大きな地震・津波が起これば、どんなリスクが生じるが分からない。そんな場所に、政府は住民を戻そうとしている。これは、あってはならないことです」
災害に“想定外”は通用しないことは原発事故で学んだはず。東電や国は、そのことを肝に命じて対策をとるべきだ。
※放射性物質から1秒間に出る放射線の数を表す