5千円以上もする分厚い本が今、ベストセラーとなっている。トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房)だ。買い求めるのはビジネスマンが中心だが、難解なため“積ん読”になっている人も多い。いったいどんな内容なのか?そこで、和光大学教授で「ピケティ入門」(金曜日)の著者でもある竹信三恵子先生に、わかりやすく解説してもらった。
ピケティは、フランス生まれの経済学者。16歳で高校を卒業し、22歳のときに博士号を取得した秀才で、43歳の現在、数量経済史という分野で世界的な業績をあげている。
そのピケティが’13年に、フランスで出版したのが『21世紀の資本』(原題は『LE CAPITAL au XXle siecle』)。本国ではそれほど脚光を浴びなかったが、’14年に英訳が発売された際、アメリカで大きな話題となった。
「アメリカでは『ピケティ・パニック』と呼ばれるほど反響がありました。『経済成長すれば格差は縮まる』という、それまで主流だった論調を、彼が真っ向から粉砕したからです」(竹信先生・以下同)
ピケティは18世紀から約300年間の格差の動きを、10年以上かけて集計・分析。その結果、得られた結論は「r>g」という不等式だった。「r」は、土地や不動産、株といった不労所得(資本)の収益率を指し、「g」は賃金といった動労所得(国民所得)の成長率を指す。この式は、資本収益率は国民所得の成長率を上回るということを表している。
「つまり、不動産や株といった資産の価値が、賃金の価値より大幅に上回っているということを立証し『格差は一貫して拡大傾向をたどっている』と結論づけたのです」
働いて得られるおカネより、資産から生みだされる利益のほうが大きい。経済成長とともに格差は縮小されると思いきや、資産を持つ層と持たない層の格差は逆に拡大していき、今後もその傾向は続く――。そんな衝撃の研究結果を、彼は突き付けたのだ。
「しかもピケティは、正統派の経済学者。そういった人が、統計データを使い実証したので、格差社会が問題化していたアメリカでの反応は大きかったということです」
各国で格差社会が焦点になるなか、彼の主張は多くの国で反響を呼んでいった。格差は今後も広がるという結論を受けて、ピケティが提唱しているのは「富裕層に課税する」というもの。
「その方法は2つ。ひとつは『所得税の累進課税の税率アップ』。最高税率を再度、引き上げたほうがいいという意見です。2つ目は『世界的資本税』。これは、世界的規模の累進課税を資産にかける、という考え方です。超富裕層の資産に課税できれば、福祉などの財源も確保しやすくなります。ただそれだと、富裕層の資産は税金を逃れるため、より税率の低い外国へ脱出してしまいます。そこで各国が協定を結び、どこのどれくらいの資産が国外へ移動しているか、たとえば移動先の銀行に開示させられるようなシステムを作ればいい、ということを彼は述べています」