昨年11月にオープンした渋谷パルコで、“虫ランチ”を楽しめるレストランが話題を呼んでいる。さらに今春、無印良品が「コオロギせんべい」を発売するなど、今、“未来のフード”としての可能性に熱い視線が注がれている「昆虫食」ーー。
「お待たせしました〜」
店員さんのこんな一言とともに記者の目の前に現れたのは、その名も「MUSHIパフェ」。パフェの上にドーンと鎮座しますのは体長5センチはあろうかという立派なタガメ。6本の脚でアイスクリームにしがみついている。よくよく見れば、タガメ以外にもコオロギ、それに小さな甲虫の幼虫・ミールワームのトッピングも(し、しかも何匹も!)。
これ、虫が苦手な人なら、タガメと目が合っただけで卒倒もの。「こんなの注文する人いるの?」と思っていたら、お店の人からは意外な答えが。
「うちの人気メニューの1つなんですよ」
こう笑顔で話すのは、昨年11月に華々しくリニューアルオープンした渋谷パルコの地下レストラン街に出店した「鳥獣虫居酒屋・米とサーカス」のブランディングディレクター・宮下慧さん。
「当初、昆虫食メニューについては『お客さまに受け入れられるのだろうか』と多少、心配もしていたんです。でも、蓋を開けてみれば驚くほどの反響で、たくさんの方が注文してくださっています。こちらの想像以上に、昆虫食への関心が高いことがわかりました」
いま、世界的に、食材としての昆虫に注目が集まっている。
昨秋、あの無印良品を展開する良品計画からも、衝撃の発表があった。それは、’20年春から新商品として「コオロギせんべい」を販売するというもの。「量産されたコオロギをパウダー状にして、せんべいに練りこみ商品化」するという。
なにゆえ、いま昆虫食なの?
「きっかけは’13年に国連の食糧農業機関(FAO)が公表した報告書です」
こう教えてくれたのは、食用昆虫科学研究会の副理事長で、『昆虫を食べる!』(洋泉社)という著書もある水野壮さん。
10年後に世界の人口が90億人近くに達するといわれるなか、そこで生じるであろう食糧問題の解決策の1つとして、同報告書では、昆虫を食用としたり家畜の飼料にしたりすることを推奨している。水野さんはさらに、こう続ける。
「従来、その高い栄養価は知られるところでしたが、このレポートで注目されたのが環境負荷の観点からの昆虫の有用性です。たとえば同量のタンパク質を生産する場合、牛など従来の家畜に比べ、温室効果ガスの排出量や必要な飼料量など、多くの面で昆虫は環境負荷が非常に少ないと報告されています」
そこで、まず昆虫食に目覚めたのがヨーロッパの、日ごろから環境問題に関心を寄せる、いわゆる“意識高い系”の人たち。
「日本ではまだ、どこか肝試し的な“イベントフード”の域を出ていない昆虫食ですが、ヨーロッパではすでにスーパーの棚に一般的な食材と並んでミールワームが置かれていたり、コオロギの粉末を練りこんだパスタが売られていたりします。その意味で今回、無印良品がコオロギせんべいを売り出すというのは1つの転換点。いよいよ日本も本格的な昆虫食時代を迎えるのかなと注目しています」
水野さんによれば近年、昆虫の養殖にビジネスチャンスを見いだした企業などから同研究会への問い合わせも増えているのだそう。
「近い将来、現在の主なタンパク質である牛、豚、鶏、魚介などに、虫が加わったとしてもなんら不思議はないと思います」(水野さん)
「女性自身」2020年2月11日号 掲載