毎年のように日本列島を襲っている巨大台風。今年は列島をかすめただけで本格的な上陸はいまだない。だが、これから“殺人台風”が上陸する可能性がーー。
「今後、3〜5個の台風が日本に接近・上陸するかもしれません。9月以降も日本の南の海面水温が高く、台風が発達しやすい条件が続いているからです。10月までは、台風の直撃に警戒しておいたほうがいいでしょう」
このように警鐘を鳴らすのは、ウェザーマップの気象予報士・原田雅成さん。9月1日、気象庁は、日本の南を中心とした海域(関東南東方、四国・東海沖、沖縄の東)の8月の月平均海面水温は29〜30度と、平年より2度前後も高く、過去最高を記録したことを発表した。
その影響もあってか、9月6〜7日にかけて、大型で非常に強い勢力の台風10号が奄美地方から九州に接近。長崎県野母崎では、最大瞬間風速59.4メートルを記録するなど、上陸こそしなかったものの、“過去最大級”ともいわれた暴風雨が、九州を中心に西日本を襲った。
気象庁は、この海面水温が高い状態は、9月下旬まで続くと予想している。
「海面水温が高くなる要素はいろいろあります。空気全体の温度が高いこと。それから高気圧の影響で、ずっと晴れた状態のまま日射が続くこと。あとは海流の影響などもあります」(原田さん・以下同)
台風は海面水温の高い海域を通過すると発達することから、まだまだ予断は許されないという。
「例年9月を過ぎると、東日本付近に台風が接近してくるのですが、今回の台風10号は九州の西の海上を北上していきました。これは太平洋高気圧が西へと大きく張り出していることが原因。台風は高気圧に沿って移動するためです。現在も西への張り出しが強い状態が続いていますが、今後張り出しが徐々に弱まれば、西日本から東日本にかけて、台風が接近・上陸する可能性が高くなります」
昨年9月、東京・神津島で最大瞬間風速58.1メートルを観測し、東日本を直撃した台風15号。千葉県のゴルフ練習場の鉄柱をなぎ倒すなどの強風の被害をもたらし、死者3人を出した。
翌10月には、大型の台風19号が関東甲信越、東北地方を直撃。広範囲で大雨が降り続き、その結果、河川の氾濫や土砂災害などで、死者91人、行方不明者3人を出す、未曽有の大災害となった。
原田さんによると、近年は極端にタイプの違う台風が、日本にやってくる傾向があるという。
「台風にはそれぞれ特徴があります。昨年の台風15号と19号のケースが非常にわかりやすい。まず15号は、小型で暴風への警戒をしなくてはいけない“風台風”でした。非常に勢力が強く、突然暴風が吹くのが特徴です。もちろん豪雨にもなりますが、局地的で、長時間は続かない。一方、19号は“雨台風”。大型なのが特徴で、湿った空気や台風本体の雨雲によって、長時間、広範囲に大雨を降らせます」
今年も15号や19号のような“殺人台風”が、日本列島を直撃する可能性がある。
「先日の台風10号のような大型のタイプになるかどうかまではわかりません。ただ、今も海面水温が平年より高いことから、非常に勢力の強い台風に発達する可能性は十分にあります」
気象庁は、9月9日から台風予報に関する運用方法を変えた。今までは台風が発生してから5日先までの進路予報を発表していた。だが、今後は24時間以内に台風に発達する見込みの熱帯低気圧の段階から、5日先までの予報を発表することになったのだ。
「熱帯低気圧については、これまで予報の誤差が大きかったため、1日先までの予報しか発表されませんでした。しかし、予報精度が向上したため、発表することが可能になったのです。これにより台風発生前から警戒意識を持つことができます。つまり、早い段階から災害に備える時間が増えたといえます」
今年発生した台風は、5月と6月で計2個。7月は観測史上初めて0個を記録した。そして8月が7個だったので、現時点では平年よりも台風の発生数は少ない。しかも上陸に至った台風はいまだゼロなのだ。
「8月だけ見るとすでに平年並みのペースになっているので、おそらく9月と10月も平年並み、それぞれ5個前後の台風が発生、そのうち3〜5個が上陸する可能性があります」
人の力によって、台風の進路を変えることはできない。できることは備えることだけだ。
「女性自身」2020年9月29日・10月6日合併号 掲載