「以前に比べ、『耳あかがたまっている気がする……』と訴える方が増えてきました。これはスマホを長時間使用するようになり、睡眠が浅くなっていることが原因だと考えられます。眠りが浅くなると、寝ている間、無意識のうちに奥歯をかみ締めてしまうことがあります。すると、耳下腺が硬くなり、平衡感覚を失ってしまうのです。それが聞こえの悪さにつながり『耳あかがたまっているのかも』と錯覚してしまうことに。耳は健康状態を表すバロメーターなのです」
そう語るのは、イヤーエステティシャンの中本多紀さん。これまで2万人近くの耳をケアしてきた「耳専門家」だ。
「東洋医学では古くから耳ツボ療法が行われてきましたが、実は西洋でも、ヒポクラテスが耳を使って治療をしていたことが知られています。ちなみに『耳介治療』を体系化したフランス人医師のポール・ノジェ博士は、『耳は胎児の形で、人体を投影している』と、今から50年以上前に学会で発表しています。そして現在では、世界保健機関(WHO)も耳ツボは350の病症に対し有効的だと認定しています。耳はまさに『人体の縮図』だといえるでしょう」
そんな耳にまつわる知っているようで意外と知らないトリビアを紹介!
■「足ツボ」と「耳ツボ」に効果の違いはある?
「足ツボも耳ツボも、全身のツボが存在している点は同じです。ただし、足は体重を支えながら歩いているので、常に刺激を受けています。その分かなりしっかり押さえないと、ツボ押しの刺激が脳に伝達されにくいのです。いっぽう耳はふだん刺激を受けることが少ないので、強い力で押さなくても刺激が脳に伝わりやすいという特徴があります。足に比べて脳に近い分、即効性も期待できますよ。さらに、『ながらケア』のしやすさも、足より耳ツボに軍配が上がります。通勤電車のなかや、家事の途中でも、思い立ったら耳を触る癖をつけてください」(中本さん・以下同)
■耳掃除をするときは「耳かき」と「綿棒」のどちらを使ったほうがいいの?
「どちらを使ってもOKです。強いて言えば、しっとりした耳あかの人は綿棒、乾燥した耳あかの人は耳かきのほうが取れやすい場合があります。どちらにしても、耳掃除は鼓膜の手前1センチぐらいのところまでにとどめておきましょう。耳の入口から鼓膜までは約3センチ。奥までやりすぎると鼓膜に当たってしまい、かなり危険です。なお、綿棒を使うときはまず耳掃除用のイヤーリムーバーを染み込ませ、耳あかをふやかすことをおすすめします。耳の穴のサイズは人それぞれですが、通常の綿棒だと太すぎる場合がほとんどですので、細めの綿棒が用意できるといいですね」
■耳かきをしてもらうと、幸せホルモン「セロトニン」が出るのはなぜ?
「セロトニンとは心のバランスを整えてくれる脳内物質の一つで、耳かきによって分泌されます。その理由の一つは、スキンシップによるもの。耳かきはスキンシップになるので、オキシトシンという癒しのホルモンが分泌され、それによりセロトニンの分泌も誘発されるのです。実はこれは、耳かきをしてもらう人だけでなく、してあげる側にも同様の効果があります。実際に耳かきをしてあげたことで、冷戦中だった夫婦仲が戻ったという方もいらっしゃいました(笑)。長引く新型コロナウイルス禍で心が不安定になりがちな今こそ、耳かきで幸せホルモンをいっぱい出しましょう!」
■お年寄りの「地獄耳」は本当に存在する?
「あんなに小さい声で話したのに、なぜか聞かれちゃった……。『地獄耳』は高齢者に多いといわれていますが、そこにはれっきとした理由があります。音が聞こえるのは、蝸牛という器官の中にある有毛細胞が、振動を電気信号に変えて脳に伝えるから。そして、蝸牛の入口付近の有毛細胞は高音に反応し、奥に行くほど低音に反応するようになっているのですが、加齢の影響を受けやすいのは、蝸牛の入口付近。つまり、高い音から聞こえにくくなっていくというわけですが、いっぽうで、ささやき声のような低い音は年をとってもまだまだ聞こえてしまうのです。悪口をいうときは、高い声のほうが無難かもしれませんね(笑)」