総人口の2回目接種率が50%を超え、働く世代にも普及してきた新型コロナワクチン。だが、ワクチン接種を巡り、会社側と社員がトラブルになるケースが出ているという。
某大手住宅メーカーの社長が「ワクチンを打ったら5年で死ぬ」として、接種した社員に無期限の自宅待機を命じる事実上の“ワクチン禁止令”を出していたことを、週刊文春が報じている。逆に「ワクチン接種を拒否したこと」を理由に、出社を禁じられたり、部署を異動させされたりする例も出ているという。
一方、政府は年内をめどに、ワクチンパスポートと呼ばれる接種証明書の電子交付の検討を進めている。接種した人の“特別扱い”に、政府がお墨付きを与えるかのように見えるが……。
「ワクチン接種をしていない人に対して合意のないままに配置転換したり、逆にワクチン接種をしたからといって感染が拡大しているような危険な地域に出張を命じたりするなど、接種したかどうかで不利益な扱いをするのは、人事権の濫用になる可能性があります。それによって労働者に損害が生じれば、安全配慮義務違反として損害賠償請求ができることもあります」
そう語るのは、ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮弁護士(旬報法律事務所所属)だ。
「使用者(会社側)は労働者を指揮命令下において働かせるので、労働者の健康などに危害が生じないよう、安全な就労環境を提供する義務があります。ハラスメントも安全配慮義務違反です。ワクチンを接種したかどうかの立場で、反対側を排除したり、逆に接種した人に過度な負担を強いたりするのはハラスメントとなる可能性が高い」
今年2月、政府も「(ワクチン接種は)国民が自らの判断で受けるべきもの」としたうえで、接種していないことを理由に解雇や減給、配置転換などをしたり、採用の条件にしたりするなど、「予防接種を受けていないことを理由として不利益な取扱いが行われることは適切ではない」という見解を示している。
もちろん、ワクチン接種を会社が禁じることは「論外」だと佐々木弁護士。
「会社側がワクチン接種をする従業員のために、特別休暇をもうけたりとか、副反応が出た場合には有給休暇を出したりするなどの配慮は必要です。いずれにせよ、接種を決めるのは社員本人というのが大原則です」
新型コロナワクチンには、感染や重症化を予防する強い効果が認められている。だが、あくまでも、任意であることを忘れずに、“ワクチンハラスメント”には気を付けたい。