《筋力トレーニングをしすぎると、がんや心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞など)の発症、総死亡(死因を問わない死亡)リスクが高くなる》
こんな研究データが大きな注目を集めている。東北大学と早稲田大学、そして九州大学の共同研究グループが、これまで世界で発表された18歳以上の成人を対象とした筋トレの研究論文1252件を精査し、分析。筋トレの実施時間と、病気の発症と死亡リスクの関連について統合的に調査を行った。
「研究の結果、筋トレを週に30~60分やる習慣のある人は、総死亡、がんや心血管疾患、そして2型糖尿病の発症リスクが10~17%低下するということがわかりました。いっぽう、筋トレの実施時間が週130~140分を超えると、糖尿病以外の疾病リスクが上昇し、死亡リスクも高まるという結果となりました。つまり、筋トレを長時間やりすぎると、かえって健康を脅かす可能性があるということです」
こう解説してくれたのは、同グループのメンバーで、東北大学大学院医学系研究科運動学分野講師の門間陽樹さん。
日々の鍛錬や、健康寿命を延ばす目的で習慣にしている人も多い筋力トレーニング。笹川スポーツ財団の調査によると、筋トレを週1回以上やる推定人口は、’02年で523万人だったが、’18年には約2倍の1千68万人まで増加している。また近年では、パーソナルジムや中高年層をターゲットとしたジムが数多くオープンするなど、老若男女問わず、筋トレブームが続いている状況だ。そんななか、筋トレのやりすぎによって病気や死亡リスクが高まることが判明したことは、衝撃的といえるだろう。
今回の研究結果は、スポーツ科学・医学分野で最も権威のある英国の専門誌に掲載され、海外でも大きな話題に。日本と少し異なる点で注目を浴びているという。
「海外では、“筋トレを週に30~60分やると寿命を延ばせるのだから、やらない理由はない”と紹介されています。適度な筋トレによって、総死亡、がん、心血管疾患などを発症するリスクを減らせることを、数値によって明確に裏付けることができたのです」(門間さん)
今回の研究は、あくまでも時間だけのデータで分析したもので、具体的なトレーニング内容や負荷の強度などのデータが盛り込まれているわけではない。
「今回の発表によって、数字が一人歩きする可能性がありますが、筋トレを60分に抑えるためにはどうしようか? やりすぎないためにはどういうアプローチがあるのか? みなさんがそういったことを考えるきっかけになればいいと思っています。さらに筋トレをやると病気の予防になるならやってみようかなと、行動に移す人が増えてくれれば、なおうれしいですね」(門間さん)
すでに筋トレに励んでいる人も、これから筋トレを始めようという人も、“やりすぎのリスク”には注意しよう。