写真に写るのは、タキシードを着た日本人男性と、純白のウェディングドレスに身を包んだ若いアフガニスタン人女性。
幸福な国際結婚の一コマだ。しかし、この半年後に訪れる悲劇を、いったい誰が想像できただろうか――。
’21年のタリバンの実権掌握で女性の権利が著しく脅かされているアフガニスタン。夫の突然の死を乗り越えて、かつての花嫁は、内戦に苦しむ同胞女性の未来を日本から照らし続ける。
■千葉県の大学の一室。日本語のテストに取り組むアフガニスタン人女性たち
「きりつ、きをつけ!」
教壇に立つ女性の号令に続き、力強い声が教室に響く。
「きょうは、9がつ28にちです。きょうは、テストです!」
千葉駅から10分ほど、京成千葉線・学園前駅で降りると緑に囲まれた校舎が目に入った。
千葉明徳学園のキャンパス内にある同短期大学の教室を借りて、土曜日の朝から行われていたのは日本語教室だ。
生徒はみんな大人の女性。室内の18人全員がマフラー状の布で頭からあごのあたりまで覆っている。
これはイスラム教の女性が着用するヒジャブと呼ばれる布。シックな色合いから、ライト・ブルーにピンクといった明るい色、格子紋様など様々あり、鮮やかである。
ここには日本語のテストにひたむきに取り組む在日アフガニスタン人女性たちの姿があった。
毎週土曜日に開催されている日本語教室「イーグル・アフガン明徳カレッジ」は11月で開校1周年。運営するNPO法人「イーグル・アフガン復興協会」の理事長を務めるのが、教室の壇上に立つ江藤セデカさん(66)だ。
「子連れのお母さんは、ベビーカーを机の隣に置いたまま授業を受けています。別室の託児ルームで一時預かりもできます」
近年のアフガニスタンの治安は極めて悪化している。
’21年に武装組織・タリバンによる支配が復活し、迫害の恐れから人々が国外に次々に亡命。現在日本には約5千600人のアフガニスタン人が暮らしているのだ。
「母国で専門知識を取得したのに、日本では就職もできない人がたくさんいます。幼い子供がいるのに、アルバイトの収入しかないと嘆いている夫婦もいます」
深く緑がかった瞳のセデカさんも、アフガニスタンで生まれ育ったイスラム教徒である。
王族の流れをくむ裕福な家庭に生まれ、勉学に励んで国立カブール大学に進学。国家公務員として働いていた“エリート”でもある。
なぜそんなセデカさんが来日して日本国籍を取得し、アフガニスタン人女性のための日本語教室を開くに至ったのだろうか。
彼女の旅路は47年前、1人の日本人男性と出会ったことで始まったというーー。