医療費は継続してかかる場合も多く、じわじわと家計をひっ迫(写真:アフロイメージマート) 画像を見る

《可及的速やかに現役世代と同様に原則3割にすべき》

 

片山さつき財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会」の分科会が、4月28日、70歳以上の高齢者が病院の窓口で支払う医療費の自己負担割合を現行の原則1~2割から“一律3割負担”にするよう提言した。

 

全国紙政治部記者が解説する。

 

「学識経験者や有識者の意見を求める諮問機関の提言には法的な拘束力がなく、最終決定は行政が行います。とはいえ『工程表を作るべき』と促しているのが異例です。この提言は、高市内閣が本格的な決定を前に、世論の反応をみるためにアドバルーン(観測気球)を上げているとも考えられます。

 

分科会は“不公平感の是正”“現役世代の負担軽減”といった若年層への配慮を掲げていますが、高市首相は現役世代の支持をとりつけて、6月に決める“骨太の方針”に一律3割負担を盛り込もうとしているのでしょう」

 

現行での病院の窓口負担は、69歳までが原則3割で、70歳以上は所得水準に応じて1割から3割だ。この線引きの見直しに高市政権が急ぐのはなぜだろうか。

 

法政大学名誉教授(政治学)の五十嵐仁先生がこう語る。

 

「社会保障費が膨らみ続けるなか、制度を持続させるための議論は避けて通れません。とはいえ、年金暮らしの世帯まで一律3割負担にするのはあまりに乱暴。70歳を過ぎたら医療との付き合い方も変わりますが、誰だって『行きたい』から病院に行くわけではありません。

 

政府は世代間対立をあおり立て、高額療養費の自己負担限度額の引き上げ、OTC類似薬の追加負担などの医療制度改革も進めていますが、高齢者が病気になったとき、心配せずに病院に行ける国にすることこそ政府の役割のはず」

 

原則3割負担になると、何が起こるのか。社会保障に詳しい淑徳大学教授の結城康博先生が話す。

 

「たとえば診察、検査、処方を含めて病院の窓口で3千円払っていたら、同じ内容で4千500円がかかるイメージです。厚生労働省の資料をもとに試算すると、関節症で外来受診した人が1割負担なら年3万2千円だったのに、3割負担になると年9万6千円に。高血圧性疾患でも、2割負担の人は年5万7千円で済んでいましたが、年8万6千円と約3万円もの負担増に。

 

高齢になると、月に何度も通院する人や複数の診療科にかかるケースもある。医療費は継続してかかる場合も多く、じわじわと家計をひっ迫させていくのです」

 

厚生労働省の「医療保険に関する基礎資料~令和4年度の医療費等の状況~」によると、70~74歳の医療費の自己負担額は1人あたり年7万3千241円(全国平均)。70歳夫婦の場合、年14万6千482円だった自己負担額が、3割負担になると年21万9千723円に。年間7万3千円もの負担増に。

 

結城先生が続ける。

 

「財務省がターゲットにしているのは、ボリュームが大きい、厚生年金を受給する高齢夫婦世帯(合計年収約520万円未満)。

 

しかし、シニア世代の家計はすでにカツカツ。この6月からの年金支給額は、夫婦2人の標準的な厚生年金額で月23万7千279円に引き上げられました。

 

ところが物価が3.2%上昇しているのに対して、年金支給額はマクロ経済スライドの適用により2.0%の上昇にとどまっており、実質“目減り”。円安・インフレ傾向が続くなか、さらなる負担で年金生活が破綻する事態も招きかねません」

 

10万人を超える医師・歯科医師で構成する全国保険医団体連合会事務局の上所聡子さんが語る。

 

「厳しい生活状況のもとで医療費の負担を増やせば、必要な受診の手控え、いわゆる“受診控え”が起こり、早期発見・治療の機会を逸することが懸念されます。75歳以上の窓口2割負担が’22年に導入されましたが、これにより、75歳以上の20%にあたる約370万人が平均で年2.6万円の負担増に。厚生労働省の予測を上回る、2.0~4.1%の受診抑制が発生しました。

 

今回の財政制度等審議会の資料でも『近年、高齢者の受診率は低下傾向』と示されており、負担増の影響も含めて、高齢者1人あたりの受診件数は減っています」

 

「軽い症状のうちは我慢」「次の受診は来月でいいか」といった“受診控え”が広がれば、結果的に治療が長引いてしまうリスクも……。

 

結城先生が語る。

 

「社会問題である認知症ですが、ある日突然発症する病気ではありません。もの忘れが気になって受診し、検査や相談につながり、服薬やリハビリ、生活環境の調整で進行を遅らせることも可能です。

 

ところが病院へ行くのが面倒、費用が不安といった受診のハードルが高くなることで“異変”が見逃され、気づいたときには認知症が進行してしまっていたというケースが増えることが懸念されます」

 

2035年には高齢者の6.5人に1人が認知症患者になるとされているが、その事態を深刻化させる引き金になりかねないのだ。

 

さらに、高齢者の負担を増やせば、現役世代がラクになるかといえば、そう単純な話ではない。

 

「75歳以上の2割負担導入時の現役世代の保険料負担軽減は、1人あたりわずか年350~400円ほどにすぎませんでした」(上所さん)

 

前出の五十嵐先生がこう語る。

 

「高齢者が医療費を払えなくなれば、多くの場合、その子供が援助することに。介護が必要になれば、時間やお金の面で負担が増すのはやはり子や孫の世代なのです。

 

高齢者はどうしたって若くなれませんが、若者や現役世代はいつか“当事者”になります。今、高市政権に求められるのは、世代間の分断をあおるような言い方ではなく、家計と健康を守りながら制度を続けるための丁寧な設計と説明です」

 

物価高対策が一向に具体化しないなか、負担増に直結する議論だけが進められていくことがあってはならない。

 

画像ページ >【表解説あり】所得水準に応じて1~3割…現行の「高齢者の医療費窓口負担の割合」(他2枚)

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