「ずっと前から報告を受けていながら放置して、あんたら何してた! 性犯罪を隠蔽していたんじゃないのか!」
3月下旬、北陸の小学校の体育館で開かれた保護者会は、怒号が飛び交う“修羅場”と化した。
石川県金沢市の隣に位置し、県内最大面積を誇る白山市。市内では25の学童保育所が設置され、そのうち県内で福祉事業を幅広く展開する社会福祉法人「佛子園」が運営する学童クラブで事件が起きた。2023~2025年の約2年間にわたり、ひとりの男性職員による女児複数名への性的虐待事案が発覚したのだ。
放課後、保護者が共働きなどで留守にしている家庭の小学生を対象に、安心できる「遊び」や「生活」の場を提供するはずの学童クラブで、なぜ卑劣極まりない性暴力が繰り返されていたのか。記者は同学童クラブの保護者や元職員たちに取材。そこから、醜悪な被害の実態が明らかになった。
そのクラブは、金沢駅から電車で15分ほどの田園地帯にあり、小学校と併設されている。グラウンドでは子供たちが思い思いに駆けまわり、その姿を支援員たちが見守る。
「被害児童は当時小学1年生から3年生の複数の女子児童で、判明しているだけでも15人以上。下半身や胸・お尻を触られるなどの“わいせつ行為”が常習的に行われていたといいます」
憤りながら語るのは、本件に詳しい白山市の保育業界関係者だ。さらにこう続けた。
「加害者である当時20代の男性職員Aは、2023年5月に採用。2025年6月まで支援員として勤務していました。同年8月に依願退職してすでに同クラブにはいませんが、最後までわいせつ行為については否認していたと聞いています。保育士の資格を持ち、同クラブに勤める前には別の学童クラブや保育園で働いていたそうです。
同僚職員によれば、彼は辞めるまで人目をはばかることなくわいせつ行為に及び、早い段階から現場スタッフの間では問題視されていたようです。思いあまった同僚たちが運営法人幹部に何度もAの行為について訴えたものの、あろうことか聞く耳を持たず。なんら被害防止策を取ることなく問題を看過していたというから、運営法人の責任は重いです」
それは取材した保護者たちも口を揃えて訴えていたことだ。加害者への憤りはさることながら、運営側の無策ぶりにも一様に厳しい目を向けていた。
「保育園でも年長組あたりから、保育士さんは子供に対して、あまりベタベタしないように注意するものです。ほかの学童の施設長と会って話したときも、『いや、お膝に抱っこなんて絶対なしですよ』と話していました。支援員さん自身、あらぬ疑いをかけられないためにも、子供との距離感は徹底しているとのことでした。特に、異性の支援員は子供と2人きりにならないのが鉄則らしいのです。ところが、あの男はそういうルールも完全に無視して、やりたい放題でした」(20代母親)
娘への性暴力の具体的内容について、ある被害女児の父親は悲痛な声で証言する。
「Aが女の子に“いたずら”することは保護者の間で噂になっていて、私もパパ友から教えられたんです。なので、まさかと思いながら娘に大丈夫かと確認したら、突然号泣し始めて……。落ち着かせて聞き出したところ、以前、娘がお茶をこぼして服を濡らしちゃったことがあったそうです。すると、Aに人気のないところへ連れて行かれて、パーテーションに隠れて『拭いてあげる』と言われたと。そのまま膝に座らされて、上着やズボンの中から下着の内側まで触れられたと、泣きながら教えてくれました。
すぐに報告しなかった理由を尋ねると、『パパが困ると思って言えなかった』と。子供にこんなつらい思いをさせていたなんて本当に許せないし、同じようにトラウマになった子もたくさんいると思うと、胸が張り裂けそうになります」
Aによる児童への性加害は、彼が退職するまで続いた。当然、複数の保護者からクラブ側に対して同様の被害申告がたびたびなされており、Aに対する対応が求められていたものの、具体的な対策は取られなかったという。なぜ訴えは聞き入れられなかったのか。
実際、運営幹部が被害の深刻さを認識せず、加害者のわいせつ行為を軽視していたふしがあることもわかってきた。かつて同クラブにパート勤務し、Aの行為を見聞きしていた元支援員の女性が語る。
「あの学童は、学年ごとにフロアが用意されていて、誰が何をしているのか一目瞭然で見渡せるんです。Aさんには特定のお気に入りの女の子が何人かいて、その子たちの腰に手を回して笑ってしゃべっているのが常でした。おてんばではない、大人しそうな子が多かったですね。とにかく毎日女の子にベタベタ触っていました。ただでさえ異性との身体的接触はよくないことなのに、堂々と体を撫でまわしたり、下腹部まで触ったり……。気持ち悪くて見ていられませんでした。
一度、Aさんが2年生の女の子と遊んでいる際、その子が無防備なのをいいことに、パッとスマホを出してスカートの中の下着を盗撮しているのを目撃して。これはもう見過ごせないなと、施設長に訴えたんです。Aさんは身長180センチくらいあってガタイがよく、直接注意すると逆恨みされるのが怖かったので……」
ところが、運営側はまともに取り合わなかったという。
「施設長からこう言われました。『あなたの見間違いです』と。いやいや、そんなはずない。私だけじゃなく、ほかのパートや職員もみんな目撃して知っていますよと説明しましたが、まったく聞く耳を持ちませんでした。『ほかの人は誰もそんなこと言っていない』の一点張り。パートの人たちは年齢層が高いので、自分は解雇されるんじゃないかという恐怖があったらしくて、誰も本当のことを話してくれない。
それでも私が食い下がって訴えると、『ああ、たしかにAさんと子供は(距離が)近いですよね』なんて言うから心底呆れました。しまいには『そんな根も葉もないことを吹聴していると、Aさんから訴えられますよ』『男の支援員さんが遊んでくれるんだから、女の子たちは喜んで寄っていきますよ』とまで。
事なかれ主義にほとほと嫌気がさし、契約期間が切れたことを理由に退職しました」(同前)
それでも一部の保護者たちの粘り強い行動により事態は動いた。
「被害児童の保護者たちが、石川県の性暴力被害者支援センターや白山市役所に相談し、事件が明るみに出ました。最初は動きが鈍かった白山市役所でしたが、2025年10月、クラブの運営法人事務所に立ち入り監査を実施。さらに保護者、スタッフ全員に、性被害の有無を問うアンケート調査をおこないました。その結果、性的虐待を含む5件の虐待行為を認定。運営法人に改善するよう勧告しました。
また、保護者たちは警察にも相談し、捜査が進められています。被害児童の心の傷を考慮し、被害届はまだ出されていませんが、今後刑事事件に発展する可能性は十分あります」(地方紙記者)
行政の介入により、ようやく運営側も事態の収拾に動き始めた。そこで保護者たちへの謝罪の場として3月下旬に開かれたのが、冒頭でふれた保護者会だ。ところが、そこでの説明は、保護者たちにとって到底納得のいく内容ではなかったという。前出の被害児童の父親が、当日の模様を語る。
「60人ほど集まっていましたが、なかには性被害について知らない保護者もいました。案内状には『当クラブにおいて職員の不適切な対応に関する事案が発生』し、『経緯および今後の取り組みについてご説明申し上げる』と記してありました。運営側の性被害認識が甘く、加害者の支援員に対して十分な対応を取っていなかったことを公式に詫びて、性的虐待事案について説明するのかと思いきや、そこは全然ふれないんです。
運営が語ったのは、支援員による『児童の逆さ吊り』と『トイレ閉じ込め』事案について、今後気をつけますという報告のみ。その2件だけ説明して『何か質問ありますか』と言うから、もうびっくりして……。加害者の名前さえ公表されず、性被害の全容も十分に説明されないなんて、なんのための保護者会なのか?
責任の所在や再発防止策を問う声と、問題を運営側が隠していたんじゃないかという怒号も上がり、そこから保護者による質問の嵐でした。予定を1時間以上もオーバーして、大荒れとなった保護者会でした」
この父親が続ける。
「保護者会には、当時クラブを管理する立場にいた幹部たちも壇上に上がっていたんですが、この期に及んで『聞き取りはしたけど、スタッフが(被害現場を)見ていないと言った』と言い張る人もいて。挙げ句の果てには『僕たちは調べたんだから悪くない』と開き直っていたのが、とても残念でした」
クラブを運営する「佛子園」の理事長・雄谷良成氏は2024年、『日経スペシャル カンブリア宮殿』(テレビ東京系)に出演。能登半島地震の復興のなか奔走する様子が取り上げられるなど、地元の“名士”として知られる。今回の一連の事件の見解を問うべく取材を申し込むと、同法人の事務所にて応じた。
――当該職員による性加害事件そのものは、認めますか?
「今回のことに関しては、本当に重く受け止めています。私自身が事件を把握したのが、今年に入ってのことで。市役所からの虐待認定が出されるに至って認識しました」
――性被害の報告が各方面から上がっても、適切な対策を取らなかったのはなぜでしょうか?
「職員の教育やダブルチェック体制など、問題があったと思います。担当していた職員たちの性被害に対する意識が甘かった。徹底されていなかったのは、組織の問題だと認識しています」
――加害者の職員は約2年間、お子さんに近い場所でずっと配置替えもなかった。
「きちんと認識していれば当然、把握した時点で配置替えをして、さらに調べるということをしたのですが、すべてが遅かった」
――「現場の幹部が性被害を隠蔽していたのではないか」という声もありますが?
「隠蔽ということはまずないですね。やっぱり自分たちも福祉の現場にいる人間なので、そういったことがないようにするのが一義ですから。ただ繰り返しになりますが、事実としては本当に性虐待を認識できていなかったということに尽きます」
――保護者会で、性的虐待についてスルーしようとしていたという指摘については?
「保護者会では、白山市の虐待認定に基づいてご説明しました。まず、そこの説明が求められると考えましたので。あえて性的虐待を外したということではありません。どれだけ組織として謝罪をしても、最後の最後まで納得できるような案件ではないと思います。ですから、誠意を尽くして謝罪するしかないですね」
落ち度を認めつつも、認識不足を強調する理事長。それに対し、白山市内にある別の学童クラブ代表は厳しく指摘する。
「同クラブの問題は、支援員の管理の甘さや対応の遅れにより長期化しました。行政や警察との連携に加え、被害者の会設立や保護者会での意思決定の見直しが、今後の運営改善のために不可欠です。学童クラブの運営は補助金などで賄われており、支援員の待遇や人数不足による管理体制の不備も、事件の遠因といえるかもしれません」
前出の父親は、取材の最後でこう訴えた。
「うちの娘はトラウマを抱え、今も密閉空間への恐怖や不安を訴えています。きちんとしたマニュアルを作って、子供たちを守る仕組みを整えてほしい。もう二度と同じことが起こらないようにしてほしいですが、学童がなくなることは決して望んでいません」
親たちが安心して子供たちを預けられる場所を取り戻すために、運営側の真摯な姿勢が問われている。
画像ページ >【写真あり】「毎日女の子にベタベタ触って」性的虐待をおこなった学童支援員のA(他3枚)
