※画像はイメージです(写真:Graphs/PIXTA) 画像を見る

慶應大学4年の新沢かれん(22)容疑者が、アルバイト先のスポーツ施設でスペアキーを悪用し、会員のロッカーからクレジットカードを窃んで化粧品などを購入していた容疑で8月16日に逮捕された。

 

「逮捕容疑は、盗んだクレジットカードで1万4千円分の化粧品などを購入していた詐欺と窃盗の罪。警視庁はそのほかにも被害者がおり、総額100万円以上の余罪があるとみて捜査しています」(全国紙社会部記者)

 

容疑者がアメリカ生まれの令嬢だったことから、この事件はSNSでも大きな波紋を呼んでいる。

 

《100万円程度で人生台無しにして、もったいない》
《この経歴から生活苦とかは浮かんでこないのですが》
《動機は何?》

 

すでに金融機関への内定が決まっていたとも報じられていることから、失うものの大きさを指摘する声も少なくない。

 

そんななか、SNSでは《家が貧乏でもないのに、他人の物を盗むのはそれはもうクレプトマニア(窃盗症)なのかもしれないね》と、事件と「クレプトマニア」を結びつけるような声も見られた。

 

では、クレプトマニアとはどのような疾患なのか。

 

クレプトマニア医学研究所代表理事で、この疾患の診断・治療にあたる精神科医の福井裕輝氏は、まず容疑者について、

 

「逮捕された学生さんがクレプトマニアと診断された事実はまだありません。警察発表の内容から推測できる限り、典型的な症例とは異なる可能性が高いと思われます。いずれにしてもこの疾患は実際に本人を診察してみなければ判断はできません」

 

と前置きしたうえで、まだ広く知られているとはいえないクレプトマニアについて解説してくれた。

 

クレプトマニアとは「盗むこと」そのものへ依存する精神疾患だ。物が欲しいから、あるいは困窮しているから盗むのではない。強い衝動とともに、「盗む瞬間のドキドキ感」や「達成感」を求めて繰り返してしまう点が最大の特徴だという。

 

そもそも、こうした衝動が起こる背景には、摂食障害などほかの精神疾患との併発や強いストレスなどが関係することがある。また、女性に多いことから、ホルモンバランスの影響なども遠因となるのではないかといわれている。

 

「診断基準で特に重要なのは、盗んだ物や対象が『自己使用目的ではない』という点。取ったものを実際には使わず、家に放置したり、途中で捨てたりするケースが典型例です。重症例では、毎日のように店を回り、食料品や日用品を次々と盗んでは放置し、腐らせてしまうことも。一方、カードを盗んで実際に使用し、日常品を購入していたような今回のケースは、原則としてクレプトマニアの基準から除外されそうです」(福井先生・以下同)

 

ただし福井氏は「カードを盗む行為自体に強い快楽やスリルを感じていた可能性はゼロではない」とも指摘する。

 

内面的な動機は、対面での診察と慎重なカウンセリングを経なければ判断できないという。いずれにしても、「ゲーム感覚でちょっと悪さをした」といった思春期の一過性の行為とは異なり、クレプトマニアはコントロール不能な依存状態であることが本質であるとする。

 

そしてクレプトマニアの進行は、アルコールやギャンブルなど、ほかの依存症とよく似た特徴もある。

 

「最初は『お金を払いたくないから』といった単純なきっかけで盗んでしまうこともあります。『いつでも止められる』と思いながら、それが徐々に回数や量が増え、ある時点から『自分では止められなくなった』と感じる。自己嫌悪もありますが、それでもコントロールできない。いったいどこからが病気か明確な線引きは難しく、グラデーションのように進行していきます。自分でコントロールが効かなくなった段階が、病気と診断されます」

 

がんなどの内科疾患と同様、早期に気づき治療につなげるほど回復の可能性は高まる。逆に重症化すると、回復は難しくなるという。

 

ではどれくらいの人が悩んでいるのか。研究はまだ十分に進んでおらず、正確な数字は出にくい。アメリカ精神医学会の診断基準では人口の0.3〜0.6%程度とされる。ただし、この疾患だけを対象とした疫学調査は行われておらず、推定の域を出ない。

 

福井氏によれば、「万引きで捕まった人のうち4〜24%%がクレプトマニアに該当する」という統計もあり、こちらのほうが比較的信頼できるデータだという。

 

「また、特徴的なのは女性の割合が高いことで、女性は男性の約3倍とされます。クレプトマニアは『衝動制御の問題』ともいえますが、衝動の表れ方には男女差があり、男性では暴力や性犯罪など、別の形で問題が表面化することもあります」

 

治療の中心となるのは認知行動療法だ。認知行動療法(CBT)は、考え方(認知)と行動のパターンを見直し、より適応的なものに変えることで、感情や症状を改善する心理療法としてうつなどの精神疾患の治療にも採用されている。

 

投薬治療もあり、抗うつ薬や安定剤を使うことがあるが、窃盗行為そのものを止めるものではなく、対症療法に過ぎないとする。

 

「治療は数年単位を要することが多く、『治癒はないが、回復はある』というのが依存症医療の考え方。盗みたいという欲求自体がなくなるわけではないものの、万引きをせずに3年、5年と暮らせる状態を『回復』『寛解』と呼びます」

 

クレプトマニアは、アルコール依存よりも覚醒剤に近い強さの依存性を持つ印象があり、回復率は低く、治療の継続自体も難しいと福井氏は語る。

 

「受診のきっかけは、逮捕や裁判など事件化してからがほとんどです。『恥ずかしさ』から早期に他者には相談しにくいこと、また、一般の医療機関ではクレプトマニアについての知識を持つ医師が少ないため、勇気を出して受診を希望したものの門前払いを受けるケースも珍しくなく、治療に結びつきづらいこともこの疾患の治療を困難としています」

 

いま「もしかして自分も」「自分の家族も」と悩んでいる人へ、福井氏からのメッセージはシンプルだ――。

 

「自分が衝動をコントロールできていないと感じたら、『病気かもしれない』と考えて、まずはクレプトマニアを専門とする医師が所属する医療機関につながること。

 

買い物を一人でしない、通販に切り替える、大きなカバンを持って外出しない、などの応急策も一時的には有効ですが、根本は専門家とのつながりにあります。オンライン診療に対応している専門機関もあり、全国から相談を受け付けています」

 

「またやってしまった」と強い罪悪感を抱きながらも、やめられない――。

 

そんなサイクルに苦しむ人は少なくない。病気として正しく理解し、適切な支援を受けることが、長い道のりを歩む第一歩になる。

 

出典元:

WEB女性自身

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: