連載第1回 『銃規制』 ビヨンセのCDを日本人が 即買いしなければいけない深~い理由
ハリウッドのセレブやスーパースターたちが『銃規制①』に立ち上がっている。ビヨンセ②やキャメロン・ディアス③といった数十人規模の豪華セレブが、全米に向けてメッセージを発信し続けているのだ。
彼女たちが立ち向かった相手はアメリカ銃社会。日本でも、アメリカで銃を規制するのは無理だと言われている。なぜなら、合衆国憲法でアメリカ国民に武器携帯の権利が規定されているからだ、というのは今や〝日本の常識〟。しかし、合衆国憲法第修正第2条の解釈として20世紀の米国最高裁判例は、民兵は武器携帯の権利を認められるが、米国市民には武器携帯の憲法上の権利は認めない、という考え方が主流であった。それが’08年の最高裁判例④で大転換し、合衆国憲法のもと各市民に武器を携帯する権利を認めるとなったのだ。〝日本の常識〟は、アメリカ国内で武器携帯権利の有無についての激しい論争の存在を紹介せず、全米ライフル協会側の広報を全面的になぞってしまっている、とアメリカからは見えてしまう。
15年前、名優チャールトン・ヘストン⑤(故人)が全米ライフル協会の金看板会長になったことで、弱体化していた組織のパワーは著しく増強された。今日、銃規制派のハリウッド・セレブは、かつてのハリウッドの大俳優が生んだ強大な銃大賛成派と渾身の力で立ち向かっている。逆に言えば、オバマ大統領にビヨンセやキャメロン・ディアスが加わって初めて、全米ライフル協会の社会的影響力と全方位で対決できるというのが現実だ。
そんな〝歯向かう〟銃規制派セレブを、全米ライフル協会は要注意人物に見立て、実名リストをインターネットに並べ立てる。さらに、1月のオバマ大統領の就任式ではビヨンセの〝国歌口パク事件⑥〟も大きな問題となった。実際のところ、ビヨンセは音響上の理由もあり、録音された自分の歌声にデュエットする形で大統領の前で歌ったので、いわゆる〝口パク〟とは異なる。アメリカ国内でも銃規制派の先頭に立ったビヨンセを追い落とそうとする銃大賛成派の狙いが透けてみえるアンフェアな攻撃だ、との見方があるほどだ。
しかし、ビヨンセは天下のビヨンセだった。彼女は全米注目のスーパーボウルのハーフタイムショー⑦で、復活どころか生きながら伝説となる最高の歌声とダンスを見せつけた。ビヨンセが全面協力している銃規制派の「全米市長会議⑧」は、ハーフタイムショーの首都ワシントン向けテレビCMを億単位で買い、銃規制を強烈にワシントンの政治家たちに対してアピールもした。まさに戦う銃規制派セレブの情熱がほとばしる〝2月のアメリカ〟と言える。
しかし、こうした銃規制の動きに対し、実は全米ライフル協会は驚愕の反銃規制戦略を
実現しようと狙っている。狙うは、ジャパンバッシング⑨である!
日本の読者の方々は、寝耳に水!
と仰天されることだろう。ここのところ、日本叩きはアメリカでは弱くなってきていたのだから。ところが、全米ライフル協会が日本のビデオ業界をスケープゴートに据えようと狙ってきているのは、100%確実なアメリカ現地情報だ。
銃犯罪の原因は若者が見がちな暴力的ビデオゲームであり、ビデオゲーム製造の本場は日本だから、ジャパンバッシングが必要、という論理だ。銃大賛成派はビデオゲームを規制し、銃は規制どころか、もっと大量の銃が社会にあれば犯罪から市民が守られると主張しようとしている。そんな極端な意見は通用しないと思うなら、あなたはまだアメリカの圧力団体の怖さを知らない。全米ライフル協会のパワーをみくびっては決してならない。ビデオゲームこそコネティカット州の小学校乱射事件の一番の原因である、これが全米ライフル協会の戦略的論理なのだ。アベノミクス⑩に浮かれる日本経済の明日に影がさしかねない、と私は見ている。
実は過去数年、ビデオゲームが犯罪を生むか否かはアメリカ司法界の重要テーマの一つであり、犯罪を生むものではないという流れが優位に立つにつれ、日本のゲーム業界関係者もひと安心していた。それを横からざっくり全米ライフル協会が引っ掻き回し、日本をスケープゴートとする自分たちに都合のいいシナリオを進行させつつある。「悪い人々にいくら銃規制しても、銃犯罪はなくならない。だから、悪いビデオゲームからこそ世間知らずの若者を守ろう!」圧力団体はこう執拗に全米に訴えていく作戦だ。
だから、日本人は心を込めて、銃規制派のビヨンセやキャメロン・ディアスたち多数のハリウッド・セレブたちを応援すべきなのだ。銃大賛成派の圧力団体の日本叩きは露骨で直接的だが、ハリウッド・セレブに対しては搦め手から攻めている。すなわち、スターの作品に金を出すな!
1ダイム(10セント)さえ出すな!
という手段を選ばないえげつなさだ。したがって、日本人が銃規制派スターたちの音楽を聴き、映画を観ることこそが、実は最大の日本叩きへの正統な対応策といえるのだ。
と同時に、正しいことを発言するアメリカの人々には、ハリウッド・セレブも含め、あなたは正しいと伝えるべきだ。ツイッターやメールなど方法はいくらでもある。人の命が関わる重大テーマである以上、トモダチとしてハートを伝えることが人の道だ。いざという時のトモダチこそ、真のトモダチなのだから。(了)
①銃規制・・・きっかけは昨年12月14日コネティカット州のサンディフック小学校で発生した銃乱射事件。小学校の児童20人を含む26人が死亡、容疑者のアダム・ランザは自殺した。
②ビヨンセ・・・アメリカを代表するシンガー。渡辺直美がモノマネして日本でも知名度が上がった。
③キャメロン・ディアス・・・アメリカを代表する女優。「湯浅はハリウッド女優の知人は多いですね。特に『バットマン
リターンズ』のミシェル・ファイファーとは『ミシェル!』『タカシ!』とファーストネームで呼び合う仲ですね」(湯浅談)
④‘08年の最高裁判例・・・「判決は僅差であったために、将来また変わることはありえる」(湯浅談)
⑤チャールトン・ヘストン・・・『ベン・ハー』『猿の惑星』で有名。下降気味だったライフル協会の会員数を500万人まで増加させた。
⑥国歌口パク事件・・・英語で「リップシンク」。日本では山口百恵の『美・サイレント』のサビの口パク演出が話題に。北京オリンピックの美少女口パク事件も忘れがたい。
⑦ハーフタイムショー・・・スーパーボウルはアメリカ最大の祭典。マイケル・ジャクソンのハーフタイムショー以来、有名歌手の出演が定例に。
⑧全米市長会議・・・「今回発信されたビヨンセやキャメロン・ディアスのビデオは、ニューヨークのブルームバーグ市長の『銃規制』の運動、つまり『違法な銃に反対する市長たち』にリンクした主張である」(湯浅談)
⑨ジャパンバッシング・・・‘80年代の日本車輸入によるアメリカ自動車産業壊滅を受けて、日本の市場の閉鎖性を批判したアメリカの日本叩き。現在は「チャイナバッシング」へシフト中。
⑩アベノミクス・・・安倍首相が構想する「デフレ・円高からの脱却、インフレターゲット2%設定、大胆な金融緩和」などの強気な経済政策のこと。