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中国政府は10月末に開かれた共産党中央委員会の第5回全体会議で、「一人っ子政策」を廃止すると決めました。これで36年間にわたり維持された中国独自の産児制限は終止符を打つことになりました。13億人を超える世界最大の人口大国である中国の転換は、さまざまな意味を内包しています。今回はこの問題に触れたいと思います。

一人っ子政策とは言葉が意味する通り、結婚した夫婦が産めるのは原則として1人だけという規制です。導入背景には当時の中国の爆発的人口増加と食糧難がありましたが、極端な人口制限政策には国内外から批判がありました。特に妊娠後半期の女性が中絶手術を受けるように強制されていたことや、中国共産党の高位官僚や富裕層が法的な制限を超えて出産していることなど、貧富格差を浮き彫りにした不平等が問題視されました。

中国が一人っ子政策を導入したのは79年。当時の出生率は、約3人でした。それが一人っ子政策の施行で急激に低下し始め、12年基準で1.66人まで低下していきました。ちなみに出生率が1人を超えているのは、例外があったからです。都市部に住む夫婦の両方が一人っ子である場合や農村部で最初の子供が女児だった夫婦は、2人まで産むことが許されていました。また余談ですが、双子の場合も産むことが許されるため「双子を産める薬」が流行っていたとも言われています。

とにかく一人っ子政策はその効果を発揮し、中国の出生率は低下。人口増加は大幅に緩和されてきました。では、そこでなぜここにきて中国政府は一人っ子政策を撤廃したのでしょうか。そこには、高齢化と労働人口の減少に対する中国政府の恐れがあります。一人っ子政策が人口増加を抑制する効果を発揮したのは事実ですが、時間の経過とともに高齢化社会を迎えるのは避けられず、労働人口は減少していきます。こうした中国の労働人口の減少は、予想以上に深刻のようです。

現在の中国の人口は13億7千万人。労働可能人口は約10億人、労働従事人口は8億人に達しているので、今は問題ないようにみえます。しかし、これからも労働人口の低下は続きます。労働力に対する依存度が特に高い中国経済が、労働人口の縮小によって萎縮していく。労働力不足と人件費の高騰が続けば、製造業などにおけるコスト競争力は低下し、経済成長の足かせになります。また高齢者を支えるための社会的な負担も大きくなっていくなど、少子高齢化社会を迎えている日本と同じような問題を抱えることになるのです。

最大の問題は「一人っ子政策を廃止したからといって、出産率が急に上がるとは限らない」ということです。経済が成長すると1人の子供を育てるのに必要な費用も大きくなり、夫婦は1人の子供をきちんと育てる選択をする傾向が出てきます。特に中国では近年、都市化が急速に進行しました。都市部では若い夫婦が経済的理由から2人以上の子供を産むのを避けようとする事例もあり、実際に北京や上海の出生率はそれぞれ0.71人と0.74人と低い水準に止まっています。さらには晩婚化や結婚自体を忌避する傾向がみられるなど、今回の一人っ子政策の撤廃に伴う効果は楽観できないのが実情であると言わざるを得ません。

13億を超す中国の人口は、20年代をピークに減少へ転じると予測されています。人口を強制的に減らすことはできても、強制的に増やすことはできません。“北風”的な強引なやり方が通用する時代は過ぎ去りました。個人の自由を抑制し選択を強制するのではなく、個人の自由を尊重し選択を促すような政策こそが、これからの中国政府に求められているのではないかと思います。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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