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今回は来年1月に導入される予定の「マイナンバー制度」について考えてみたいと思います。みなさんの元にも10月以降、マイナンバーが簡易書留で届いていることと思います。その中に含まれている個人番号カードの申請書を送り返せば、来年1月以降、みなさんの住んでいる市町村の窓口で個人番号カードが受け取れるはずです。

その導入におけるメリットやリスクについてはテレビや新聞などで連日報じられてきましたが、不安に感じる方も多くいらっしゃることと思います。国民一人ひとりへ永久に変わらない番号がつけられて政府がそれを管理するのですから、プライバシー侵害などの人権問題や、なりすまし被害などの懸念が生じるのも不思議なことではありません。

いっぽう私が生まれ育った韓国では、日本のマイナンバー制度に当たる「国民登録番号制度」があります。私が生まれたとき、すでに当たり前のように使われていました。韓国では国民の誰もが自分の国民登録番号を持っていて、暗記しています。というのも、市町村で行われる行政サービス全般と民間サービスのほとんどで個人認証手段としてこの番号が使われているからです。

韓国で初めて国民登録番号制度が施行されたのは68年、その発行が義務化されたのは70年と、いまから45年も前のことです。13桁で構成されている国民登録番号は、日本のマイナンバーとは異なり、生年月日、性別、出生登録地の情報がすべて露出したものになっています。制度の導入当時、プライバシー侵害やなりすまし被害への懸念がなかったわけではありません。では、なぜここまで個人情報が露出しているのかというと、導入のきっかけが68年に起きた北朝鮮スパイによる青瓦台襲撃事件だったからです。

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青瓦台はアメリカのホワイトハウスのようなところで、大統領が住んでいるところ。そこが襲撃されたわけですから、韓国政府も再発防止策を取らざるを得なくなりました。そこで導入されたのが国民登録番号制度だったのです。世論の反対はもちろんほとんどなく、いまならば過激とも思える制度が無抵抗で導入され、そして維持されてきました。

こうした韓国の国民登録番号制度に比べて、日本のマイナンバー制度は一人ひとりに異なる12桁の番号が割り当てられるものの、個人が特定されないよう住所地や生年月日などと関係のない番号が割り当てられることになっています。つまりマイナンバー自体は個人情報が含まれない、ただの番号にすぎないのです。

それは、その個人が誰であるかという“識別”には使われるが、その人が番号に該当する人かという“認証”には使われない。韓国では、国民登録番号が識別だけではなく認証にも使われます。喩えていうなら、銀行の預金口座番号と暗証番号が、国民登録番号という一つの番号で完結するというもの。他人の国民登録番号がわかれば、なりすまし行為もそう難しいことではないのです。

特に、ネット時代におけるそのリスクは高くなります。そういう意味でいえば、日本のマイナンバーは識別情報だけなので、暗証番号などの認証情報が組み合わされない限りは、悪用されるリスクは低いといえます。

とはいえ、個人を識別する番号はすでにたくさん存在しています。預金口座番号、クレジットカード番号、運転免許証番号、健康保険証番号、パスポート番号などがそうです。そこで政府が改めて国民一人ひとりへ番号を付与することに、どれほどの意味があるかは冷静に考えるべきです。利便性があるのは事実ですが、潜在的リスクを最小限にするためのマスコミによるチェックや国民的な議論を続けていく必要があると思います。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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