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Facebookの創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグが、第一子となる女の子が生まれたことで2つの宣言をしました。1つは、自ら2カ月間の育児休暇を取るということ。そしてもう1つは保有するFacebook株式の99%(時価総額でいえば、およそ5兆5千億円相当)を慈善活動のために寄付すると約束したのです。

そこで今回は「米国の寄付文化」について取り上げたいと思います。中でも金融資本主義がもっとも進んでいる米国が、世界でもっとも寄付文化の発達した国になっているのはなぜなのか。そこには、いくつか理由があります。

1つ目は、米国の建国を主導した「清教徒の宗教的な教え」です。米国の寄付文化の1つの特徴として挙げられるのは、その絶対額も去ることながら個人による寄付が70~80%を占めている点です。これは博愛主義を基礎とする宗教的な教えによるものが大きいと考えられます。

2つ目は、寄付をしやすい「税制面での制度環境」です。米国では寄付額の約50%が税金免除の対象となり、税金が戻ってくる体制になっています。また税制的に優遇される寄付先が少数に限定される日本に比べ、米国では寄付先の適格性を審査する政府組織が機能しており、多くの非営利団体が寄付の対象になっています。寄付を受けた非営利団体が社会的価値を生み出し、それがさらなる寄付を促すという好循環が米国にはあります。

3つ目は、「大学の役割」です。世界の大学は名前を地名からとったものが多いですが、米国の私立大学は設立者や発展に大貢献した寄付者の名前をとった場合が多いのです。ハーバード大学、イェール大学、ブラウン大学、コーネル大学、スタンフォード大学などがその例です。

そして4つ目が、「富裕層による巨額の寄付文化」です。今回のザッカーバーグのように、米国では歴史的にビジネスで大成功した人たちがその財産の大部分を、社会への還元として寄付してきました。中でも代表的な人物は、鉄鋼王として知られるアンドリュー・カーネギーです。

世界各地に2千500以上の図書館を作ったことで有名なカーネギーですが、生前は冷酷な経営者として悪名も高かったそうです。しかし一方では富裕層の社会的義務についても発言していました。富裕層は家族が生活するのに必要な財産を残し、残りは社会に還元すべきだと力説。「人生の3分の1は教育を受けることに力を注ぎ、次の3分の1はお金を稼ぐことに力を注ぎ、残りの3分の1はそのお金を意味あることに使うよう力を注ぐべきである」という独自の哲学は有名です。

ちなみに米国には収入の3分の1は仕事に使い、3分の1は貯金し、3分の1は寄付をする「収入3分法」というものがあり、多くの富豪が実践してきました。彼らに共通する精神は「持つ者の真の義務は、寄付である」ということでした。

こうした伝統を受け継ぎ、“投資の神様”とも呼ばれるウォーレン・バフェットは、06年に自身の財産の99%を寄付すると宣言し、世界のお金持ちを対象に死ぬまでに全財産の半分以上を寄付することを約束させる「寄付約束運動」というキャンペーンを主導しています。これにはマイクロソフトのビル・ゲイツも賛同し、「全世界の億万長者から財産の50%以上を社会に寄付する約束をもらう」という運動を展開しています。

財産は社会から得たもので、その財産を社会に還元するということは当たり前なことなのかもしれません。“情熱は成功の鍵であり、成功の完成は寄付である”というバフェットの言葉には、成功者の義務と責任が示されていると思います。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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