ヨーロッパで、またもやテロが起きてしまいました。今回の攻撃の舞台になったのは、ベルギーの首都ブリュッセル。3月22日午前8時(日本時間午後4時)ごろにブリュッセル国際空港で2回の爆発が起き、さらにその約1時間後には市内中心部に近い地下鉄駅構内でも爆発がありました。この連続テロによって、空港では14人、地下鉄駅では20人の計34人が死亡。少なくとも230人以上が負傷するという大惨劇になりました。
事件の直後、過激派組織「イスラム国(IS)」は、事実上の犯行声明を出しました。以前この連載でも取り上げたように、今回の事件の約4カ月前にはパリで死者130人、負傷者300人を超える被害者を出した連続襲撃事件が起こったばかり。そのパリでの連続襲撃事件と、今回のブリュッセルで起こったテロ事件との間には、関連性があると言われています。
ブリュッセルといえばベルギーの首都であるだけではなく、欧州連合(EU)や世界銀行、IMF(国際通貨基金)、そして200を超える大使館などが集まっているヨーロッパの心臓部。そういう意味で今回のテロは、ある意味、ヨーロッパに対する攻撃であるとも捉えられます。
では、なぜ今回ブリュッセルが標的になったのか。それには様々な理由が指摘されています。まずベルギーはヨーロッパの中でもイスラム教徒の人口が多い国。人口1120万人のうち、50万?60万人がイスラム教徒です。殆どは、トルコや北アフリカ、そして中東からの移民やその子孫。イスラム教特有の近代的な教育の軽視や、宗教的な思想を重視する傾向と重なり、彼らの失業率はかなり高いといわれています。
つまりベルギーに住むイスラム教徒の多くは貧困層が占めており、社会体制にも馴染むことができないため、結果的にイスラム原理主義に陥る確率も高いといえます。
実は、今回のテロに関しては予想ができていたという見方もあります。というのも昨年、多数の犠牲者を出したパリのテロ容疑者の身分が明らかになるにつれて、ISのブリュッセル支部が関与していたことがわかっていました。ベルギーは、前述したようにトルコ系やモロッコ系移民を多く受け入れてきた歴史があります。
南西部に位置するモレンベーク地区は、移民2世、3世のイスラム教徒が数多く居住しており、一部ではパリ同時多発テロの実行犯も潜伏するテロリストのアジトと呼ばれるほど。同地区では住民の約80%がイスラム教徒とされていて、その一部がイスラム過激派組織へと流れていったのではないかという意見もあります。そして、その隣接都市のブリュッセルで今回のテロが起きたのです。
イスラムの世界は’47年の国連総会でパレスチナ分割決議が行われ、米国の圧力によって成立したイスラエルのパレスチナ地区の統治開始以来、今日にいたるまでずっと戦争の真っ只中にあります。相容れない世界観の違いが、今日の一連の紛争の原因となっています。そしてその世界観の対立構図は、極めて多面的であります。
たとえばキリスト教対イスラム教、サウジアラビア主導のスンニ派対イラン主導のシーア派といったイスラム内の宗派の対立、アラブ対西洋諸国、アラブ対イスラエルの紛争、イスラム内の世俗主義とイスラム原理主義の紛争、独裁政権などに象徴される権威主義対民主主義を求める民衆との紛争、多数民族対少数民族の民族紛争、など多岐にわたる紛争がいまなお複雑に絡み合って繰り広げられているのです。
そしてここにきて「イスラム系移民の子孫とその社会の主流派との紛争」が加わった。このように一連のテロ事件の根は、我々が思っているよりもはるかに深いところにある気がします。
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