韓国の政界が大変なことになっています。連日の報道でご存じの方も多いかと思いますが、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領がスキャンダルに巻き込まれ、就任以来、最大の危機を迎えているのです。大統領支持率も史上最低に落ち込み、大統領の退陣を求めるデモが連日のように行われるようになりました。
その導火線となったのは、大統領が友人の崔順実(チェ・スンシル)氏に演説文の修正などを度々お願いしていたという点でした。しかし韓国のマスメディアの報道などをみていると、問題はそれだけに留まりません。大臣級の人事に介入したり、財閥などから800億ウォン(約73億円)にのぼる資金を集めて設立された文化支援財団「ミル財団」とスポーツ支援財団「Kスポーツ財団」を事実上、私物化していたとの疑惑が取りざたされています。そして、その過程の中で朴大統領の側近が資金集めに関与した疑いもあがっています。
その崔さんですが、朴大統領と40年近く姉妹のような親密な関係にあったとされている人物です。朴大統領の父親はクーデターを通じて政権をとり、1963年から1979年まで長期軍事政権を築いた朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領です。その朴元大統領は在任中の1979年に、腹心であった大韓民国中央情報部長に拳銃で暗殺されることになりますが、そうした中でも崔さんは天涯孤独になった朴大統領を支えてきたようです。
朴大統領は「どんなに才能が際立っていても、自分への忠誠心が立証されなければ重職に登用しない」と言われるほど、忠誠心を大事にする人です。過剰と言えるほど人間不信で、義理や忠誠を大事にする。そこには、前述したように父親が最も信頼していた部下の裏切りで命を失ったという原体験があるように思います。だからずっと自分を支えてくれた崔さんに対して、朴大統領が厚い信頼を寄せるのもおかしいことではありません。
ただ一国の大統領が公私混同に走るとなると、話は違ってきます。国民が選んだ人ではない人に公的なプロセスを経ない不透明な形で権力を行使させることは、重大な裏切り。悲しいことに、韓国の政治では大統領が任期後半になると必ずといっていいほどこうしたことが起きています。過去の大統領も逮捕されたり、暗殺されたり、自殺するなど不幸な末路をむかえる例が多いのです。
こうした構造的な問題の背景には、「歪んだ儒教精神」があるように思います。韓国の大統領選挙では、候補者の能力よりも候補者の人徳で大統領を選ぶ傾向が強いのです。人徳があるので、当然ながら倫理的な意味での期待も高まります。しかし一旦大統領になると、大統領が持つ圧倒的な権力行使によって自らの利益を得ようとする“取り巻き”が群がり、国政を混乱させます。
そして任期後半になってくると、それが明るみに出ることになりますが、国民は「人徳で選んだ大統領が人徳に反することをした!」と断罪し、大統領への支持率は急降下。すると次の大統領選挙に出る候補者たちは与党も野党も関係なく、現職の大統領を激しく叩き始めます。「自分は現職大統領が持ち得なかった人徳を持っている!」と証明するために。
韓国は、そろそろこの悪循環から抜け出さなければなりません。そのために最も重要なのは、国民が大統領を選ぶ際の明確な「基準」を持つことではないかと思います。自分の好き嫌い、そして人徳といった曖昧な感覚的基準ではなく、冷静に韓国を輝く未来へと導く人格や能力を有する人を大統領に選ばないと、今回のようなスキャンダルはまた繰り返されることになるはずですから。