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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

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普段、わたしたちは情報の約80%を視覚から得ていると言う。

通りで…
通りで目が疲れるわけだよ…!

視覚以外にも聴覚、触覚、嗅覚、味覚と優れた機能を持ちながら、どうしてこんなに視覚ばかりに偏ってしまったんだ。
パソコンやスマホなど文明機器によって我々現代人の目はさらに疲れ果てていることだろう。

そんな瀕死のマイアイズがいかにありがたいものかを思い知るべく
わたしはあるイベントへ向かった。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク“対話のある家”」。
大阪・グランフロントの中にある積水ハウスのエリア「住ムフムラボ」で行っているイベントだ。

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ダイアログ・イン・ザ・ダークはこれまで世界39ヵ国で行われている暗闇体験プログラム。
「対話のある家」は、積水ハウスとコラボして“家”に着目したものらしい。

時間になると参加者たちが集まった。5人。荷物もロッカーへ預け、身ひとつで突入する。
他人のわたしたちが、これから暗闇の中、共に生きる「家族」となる。
まず初めに、わたしたちはある密室へ通された。
「これからわたしたちは純度100%の暗闇の中へと入っていきます。夜部屋で電気を消しても、目が慣れれば見えます。ですが、純度100%は決して見えることがありません。目で見るということは諦めてください。
スタッフのお姉さんはそう言いながら、少しずつ明かりを暗くしていく。
とはいえ、どのあたりに人がいるかまだ視認できた。
純度100%では、それすらできないのか…?夜の暗闇をマックスとして生きてる自分にとって、全く想像がつかない。
「全く見えないので、メガネをかけていても意味がありません。メガネを預けられますか?」
お姉さんが問う。
「体の一部なので」とかけ続けることを選んだが、それが無駄な判断であったことに気付くのは、たった5分後の出来事である。

「それでは、純度100%の暗闇の中へ入ります。皆さんを助けてくれる仲間を紹介します。やよちゃんです」やよちゃんと名乗る女性は、普段から目が見えないようだ。
「目が見えないとき、何から情報を得ると思いますか?心眼?…それができたら素晴らしいですね。わたしたちは、触ったり、音を聞いたりして物や人の場所を探ります。ちょっとやってみますね。やよ、ここです。やよ、ここです。どうですか?どこかわかりますか?」
二回目のここです、の瞬間、音の位置がグッと下に下がった。やよちゃんがしゃがんだのだ。
音だけで状況が浮かぶ。これが「聴覚から情報を得る」ということか…!
「聴覚」というものをこれほど実感したことはない。
「何か行動するときは、周りの人に“やよ、座ります!”“やよ、立ちます!”と、自分の名前と一緒に伝えてあげてください」
そうやって音を出すことではじめて自分の存在をアピールできる。
見えない世界で音を発さないということは、存在が消えてしまうことと同義なのだ…。
わたしたちはみんなに存在を発信できるよう、一人ずつ自己紹介をした。
「それでは、純度100%の世界へ入っていきましょう。これで、物があるかを確認してください」
足もとを確認するための魔法のステッキもとい白杖を手渡され、わたしたちはその扉を開けた。

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ミッションは「暗闇の中のおうちへ帰ること」。
ドアを開き、靴を脱いで、玄関へあがる。
こんな簡単な毎日行うことが、暗闇の中ではすごく難しいことへ変わる。
先ほどの部屋では徐々に部屋が暗くなっていったため位置関係が分かっていた。
でもここでは、見えない状態から始まったため少しも何がどこにあるか分からない。
どこへ向かって進めばいいんだ?どうやって歩けばいい?
他の参加者がキャッキャ言いながら歩き出しているのに対し、わたしは思いっきり怯んだ。
「電気をつけて」と暴れ出したくなった。
お化け屋敷でリタイアする系女子になりたかった。
どうしよう。歩き出せない。
やみくもに手を伸ばしたら、他の参加者であるたまちゃんの腕に触れた。

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「あ…よかった、目の前に人がいる。大丈夫だ」
それが分かった瞬間、どれだけ安心したことだろう。同時に、視覚に頼り切りの自分と、視覚を失った自分の弱さに気付く。
先頭を切るやよちゃんがどんなに「こっちだよ」と教えてくれても、それがどっちか全く見当もつかなかった。

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白杖で「進める」ことだけ確認して、時々手を伸ばしてたまちゃんの存在を確認して、
半ベソで進めば存外家の入口はそばにあった。
たった1メートルほどの距離を、冷や汗をかきながら、ようやくわたしは家に帰れたようだ。

玄関をあがると、「おかえりー!」と声が聞こえた。
もう一人のサポーターである家にいた家族のけいたんが出迎えてくれたのだ。
家にあがったらさっきまでしっかり握りしめていた白杖は預けることになる。さっそく戦友を失った気持ちだ。

わたしたちは、居間を抜けて縁側に並び、サンダルを履いてお庭を散策。
なんとお庭には楽器が用意されていて、“春”をイメージした音楽を奏でた。
「春と聞いて、何を連想する?連想したもので、音楽を作ってみよう」
ウクレレや民族楽器、ハンドベルなどそれぞれ楽器を使って“桜”“迫りくる花粉”“6年後に迎える定年”の3曲を作曲。
精力的な音楽活動を終えたら、楽器を元の場所へお片付けして
再び部屋に戻って居間で座布団に座って一息。
これが、文字にするとめちゃくちゃ簡単に見えるが純度100%の暗闇下ではどれだけ難しいことか…!
でも、最初ほどの恐怖はなかった。
誰かが助けてくれるということ、ここが怖い場所ではなくあたたかい家であるということが分かったからだ。
他人がいなければ、わたしは居間でくつろぐことさえできない。

暗闇のなか、お茶をすることになった。
けいたんがお茶とお菓子を出してくれて、クッキーをばりばり食べながらお茶をすすった。
こんな当たり前のことが、暗闇の中というだけですごく不思議なことに感じる。
お茶を飲みながら、身の上話をする。ここでは絶対嘘がつけない気がした。
部屋に入るまでの不安な時間はあんなに長く感じたのに、落ち着ける時間はあっという間に過ぎ、おうちから出ていく時間になってしまう。
あれほど怖かった暗闇なのに、今では少し名残惜しい。
そしてここになってようやく、わたしは暗闇での「見方」を理解した。
位置関係を把握しようとするから、どうしたらいいか分からなくなる。音だけ聞いてどこにいるかを把握してから、邪魔なものを避けてそこへ向かえばいいんだ。

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ゆっくりだけど、順応できる。
わたしたちは何かを失っても、生きていける。
自分の成長を見たようで、すごくうれしかった。

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イベント終了後、やよちゃんに少し話を聞かせてもらった。

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やよちゃんは極度の弱視。後天的に少しずつ視力を失った。
昔は子供たちを自転車に乗せて3人乗りしていたこともあったという。
「今も少しずつ悪くなっていってるんです。医者に“18歳までに失明する”と言われ、もうすぐ悪くなるんだ…って思ってた時期はつらかった。でも、今はつらくないかな。見えなくてもいろいろできるってことが分かったので。普通に見えてた頃経験できなかったものもたくさんあります。知らない人が声かけて手伝ってくれたりとか。ここダイアログ・イン・ザ・ダークでは、視覚障がい者の体験をしてもらうというよりは、“見る”以外の感覚を使ってもらって、明るい世界でもそれを活かしてもらいたい。今はさみしい事件も多いけど、この体験を通じて社会や家族に“対話”が増えたらいいな。私たち目を使わない視覚障がい者ともここで仲良くなって、街でもっと声をかけてもらえたらと思います」

この体験でわたしは、“見えなくなった時の恐怖”と“順応できる自分”、そして何より“他人がいてくれることの心強さ”を知れた。
そうだ…これがコミュニケーション!!
見えていたって、人間関係分からないことだらけ。
人間ついつい怠けがちだけど、分からないときこそ必要なのは「言葉」なんだ…。

暗闇の中で…なんか見えた気がします…!
もうこれを全人類の必修科目にしたいくらいだぞ。
ぜひ皆さん、暗闇の中で本当に大切な何かを見出してきてください。

 

積水ハウス×ダイアログ・イン・ザ・ダーク
共創プログラム『対話のある家』~第11回「春を呼ぶ音」
2016年2月18日(木)~3月28日(月)
詳細・予約はこちらのサイトから↓
http://www.sumufumulab.jp/did/

米原千賀子

ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。

公式サイト http://yonusa.wix.com/4bunno1
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