「毎朝、私たちが顔を洗い歯を磨くことは、心身を清める、ある意味『禊』です。暮らしのなかの何気ない行動や考え、言葉には、神道と密接につながっているものが多いのです」

そう語るのは、日本三大八幡宮のひとつで、平安時代からの歴史を誇る石清水八幡宮(京都府八幡市)の宮司・田中恆清(つねきよ)さん。田中宮司は全国8万の神社を包括する「神社本庁」の総長でもある。

 

身近にありながら意外と知られていない、神道について綴った田中宮司の著書『神さまが教えてくれた幸運の習慣』(幻冬舎)が話題だ。田中宮司によれば、日常生活は“神さまとのつながり”を築く機会にあふれていて、それら一つひとつの習慣は、人生を好転させるきっかけになりうるという。今回は、田中宮司に、“神さまとお近づきになる”そして“幸せを導く”ための考え方を教えていただいた。

 

「神道の原点は自然崇拝です。『共生』(ともうみ)といい、自然の働きのなかに神々をみとめて畏れ敬い、自分たちも自然の一員であるという考えが根付いています。さらにご先祖たちは、『物と者は同じ。物にも心を添えて』と伝えてきました。これは『物も大事にしなさい』ということ。倫理や道徳として身にしみこませ、代々家族で引き継いできた伝承が、核家族化が進んだことで断絶しかけています」

ご先祖とのつながりを、今こそ、引き継いで伝えることが大切だと、田中宮司。

 

「うちの神社にも、お正月など繁忙期に学生さんがアルバイトにきます。最初は茶髪にピアスをしていたりしますが、身だしなみを整え、お辞儀の仕方や、礼儀作法の基本を教えると素直に覚えてくれます。親御さんからも、『うちの子が変わりました』と、感謝の電話をいただくことも。みなさん、古来から受け継いできたことを『どんな意味があるの?』と、とても知りたがっているように思います。残念ながら現代では教えてくれるところがなかなかありません。『人は見た目』といいますが、体を清めて、言葉と姿勢をよくして心を整えることで、よい気を呼び込み、幸運を招くきっかけになるのです」

 

日本には、言葉に魂が宿る「言霊信仰」も息づいている。

「『ありがとう』『失礼します』といった、日本語のあいさつには、心を開いて相手に迫る、という意味があります。これが積み重なると、心と心のつながりになっていきます。『おかげさま』にも、神さまや、家族、ご先祖、周りのいろいろな人の“おかげ”をこうむり生かされていることへの気づきと感謝が入っています」

 

人は亡くなると、先祖として、八百万の神とともに家の守り神となり、子孫を見守っていくとも伝えられている。

「『敬神崇祖』は、神さまを敬い先祖を尊ぶという意味で、神さまとご先祖は一体であると考えられてきました。遠い昔のご先祖がいたから、私もあなたもいるのです。もし連綿と続く歴史のなかで、たった一人でも欠けていたら、今ここに存在していません。ですから生まれてきたことだけでも奇跡、生きていることはもっと奇跡なのです」

 

とはいえ、人生はよいことばかりが続くわけではない。

「悪いことだけの人生もありません。苦しいときの神頼みでもいい。家族、友人を頼るように、神社を心の拠り所にしてほしいですね。『穢れ』とは、心身に流れる生命力の“気が涸れる”ことです。神社は、失せた気を取り戻す場所です。感謝の気持ちを持って懸命に生きる人を、神さまは必ず見守ってくださいますよ」

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