「リビングルームの窓から空を眺めていたら、白くぽっかり浮かんだ雲がゆっくりゆっくり流れていました。そのとき突然、胸の奥から亡き夫への想いが湧き上ってきて、『貴方(あなた)!貴方!』と呼びかけていたのです」

 

こう語るのは、昨年3月から70年前に戦争で亡くなった夫・仁九郎さんに、毎日ラブレターを書き始めた福岡県糸島市在住の大櫛(おおくし)ツチヱさん(94)。ある日のラブレターにはこんな一節がある。

 

〈貴方!貴方!貴方!

何回も呼んでみたいのです。

貴方と呼ぶと貴方と過ごした一年二ヶ月の新婚時代に戻るのです。貴方のぬくもりが蘇ってきます。

有難う!有難う!〉

 

その素直でみずみずしい文章が地元紙で取り上げられると、NHKの『おはよう日本』で紹介されるほど話題を呼ぶ。そして6月10日、ツチヱさんの想いはついに『70年目の恋文』(悟空出版)として1冊の本となった。

 

そもそも、ツチヱさんが手元にあったスケジュール帳にたまたま書きつけたのが、“恋文日記”の始まり。今も毎日つづられるその書き出しは、いつも『貴方!貴方!』の呼びかけで始まる。

 

「書いているときは、いつもときめいているの」

 

とほほ笑むツチヱさん。著書の担当編集者・栗田孝子さんは「このときめきこそが大事」だと語る。

 

「ツチヱさんは94歳とは思えないほど若々しい。それは外見だけでなく、内面のモノの感じ方も。恋文を書いているときの“ときめき”は幸福感につながり、快感物質のドーパミンの分泌を促し、脳科学者が言う“幸せホルモン”のセロトニンも活性化して、心身ともに元気に輝いてくるのだと思います。ときめきこそツチヱさんの若返りの原動力になっているのでしょうね」

 

現在、長男の勝彦さん(73)と糸島で暮らすツチヱさん。家事のほかに、講演で話す機会も増え、ますます元気で輝いている。

 

「90歳を過ぎても毎日元気で楽しく過ごせるのも、恋文を書くことでときめき、夫を身近に感じることができているからだと思います」

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