「先生、お久しぶりです。引出物を求めるためにお店にうかがって以来です……」
憧れの人を前に、少し緊張した面持ちで切り出したのは女優・羽田美智子さん。ずっと会いたかった人−−陶芸作家・大嶺實清さんは、沖縄のみならず、現代日本を代表する陶芸家のひとりとして、見る人の心を震わせる作品を世に送り出し続けている。羽田さんは、結婚式の引出物を探しているときに大嶺さんの作品に出合って以来、その世界観に魅了されている。
大嶺さんの作品が語られる際、あげられることの多いのが、独特の「ペルシャブルー」。羽田さんもまた、沖縄の海を静かにたたえたような、その透徹したブルーを愛してやまない人のひとりだ。まぎれもない、沖縄の陶芸の第一人者。しかし、自身と作品が沖縄の“伝統”と結びつけて語られがちなことに違和感をおぼえると大嶺さんは語る。そこには、沖縄という地が背負わされてきた歴史が関係している。
「かつて、『琉球処分』というものがありました。政府が、琉球生活をやめて“大和風”生活をしなさいと、言葉からすべて変えさせたんです。それで、人々は島のものを使わなくなった。島でつくられるものはみんな“×”をつけられた。僕が小学生だったころ、沖縄でできたものなんか、まわりになかったんです」(大嶺さん・以下同)
そんな大嶺さんが初めて沖縄の焼き物にふれたのは、進学先の京都でのこと。’60年代、仲間と現代アートに傾倒していたころ、散歩中に、ふと立ち寄った道具屋で。
「『これ何?』ってたずねたら、琉球南蛮っていう。びっくりしたね、俺の島じゃないか!って。震えるくらい感動した。琉球処分前につくられていたものだった。それから、ハマったの。だから、どっぷり伝統なんてタイプじゃないんだ」
今では大嶺さんの代名詞ともいえるペルシャブルーも、初めは伝統に反する形で生まれたものだという。
「沖縄の伝統的な釉薬には2種類の青があって、ひとつは沖縄で『オールー』と呼ばれるコバルトブルー系の青。もうひとつがグリーンに近い『オーグスヤー』。どっちも大好きだけど、それだけが青じゃないよなって思ってた。それでつくったのが、ペルシャブルー、限りなく瑠璃色に近い色。先輩たちからは『原色をうつわに使うのはおかしい』とか言われたけど、好きだからしょうがない、って使い続けてきた。いつだってこんなだから、伝統を守りたい人には嫌われる(笑)。でも、いいものなら、新しいのも入れていかないとさ。どれほど世の中が発展しようと、ものの良しあしを決めて選び取るのは“人力”だから」
大嶺さんが、ふと、羽田さんにひとつの作品を差し出した。土そのもののような、無垢な雰囲気をまとった焼き物。
「これはね、まったくの“ヌード”、衣装なし。土だけの仕事。これが好き。沖縄の焼き物というと、食器のイメージが強くなっているけど、それだけじゃないよなあって思う。土というのはおもしろい。いろんな土を焼きたくなる。僕もまだこれから。まだスタートだよ」
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