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「日本国憲法は、公布から70年という歴史を持ちますが、“憲法”という考え方はどの国で生まれたものなのか、ご存じですか?そもそも、どの国にも必ず憲法はあるものなのでしょうか?」

 

著書に『憲法主義/条文には書かれていない本質』(PHP研究所)などがある、憲法学者で九州大学法学部教授の南野森さんはこう問いかける。

 

「世界各国の憲法は、じつに“いろんな顔”を持っていて、思わず『へえ〜っ』とうなってしまうユニークなものも多い。これらを知ったうえで日本国憲法を考えてみると、また違った側面が見えてきますよ」

 

国や時代によってさまざまに、その表情を変える憲法。世界と歴史を見渡してみると、意外な憲法も。そこで、南野さんに、5つの「憲法トリビア」を解説してもらった。

 

【1】イギリスには憲法がない

 

「世界にはイギリスなど『憲法がない』国が8カ国ほどあります。こういった国は憲法で定めるべきことを法律が担っているのです。日本では、憲法はあらゆる法律の上に立つ“最高法規”。それがない国はさぞ不便だと思いますよね?でも、たとえばイギリスの場合、法律だけでなく「判例や習慣」にも重きが置かれていて、他の国とは異なる独自の歴史と伝統がある。

 

イギリスでも、『他国のような憲法を持つべき』という議論はあるようですが、それより『自分たちの国は独自のやり方でいこう』という風潮が強いようです。いずれにしても、『憲法がない』国のほうが例外だとはいえるでしょうね」

 

【2】アメリカの憲法は世界一古い

 

「建国の歴史が浅いことを考えると意外かもしれませんが、じつは、1787年に作成されたアメリカ合衆国憲法が、世界一古いのです!イギリスから独立し、新たに国家を『Constitute(=設立・構成)』しようとなったとき、世界で初めてできた文章がまさに『Constitution(=憲法)だったわけですね。

 

もちろんイギリスの歴史はそれより古く、ひとつのまとまった『法文書』をつくって国家を構築する行為がなかった。逆に言えばアメリカは、ゼロから国をつくるために、『憲法』が必要だったのです。そしてこの考え方はヨーロッパ大陸の国々にも広がり、2番目にできた憲法はポーランドで1789年、その後、フランスで1791年……と続いていきます』

 

【3】中国や北朝鮮にも憲法はある

 

「中国の憲法は、近代国家として認められるために『立憲主義(=国家権力を憲法の制限下におくこと)』の考え方でつくられました。『国民主権』も書かれているし、現在では『表現の自由』などの人権条項も見られますが、内情は依然、一党独裁だったり、政府に都合の悪いインターネット情報が制限されたりと、かなり立憲主義とはかけ離れていますよね……。

 

ただ、ユニークなのは中国でも北朝鮮でも、憲法のその『前文』。アメリカやフランスなどの前文は非常にあっさりとしていますが、中国と北朝鮮の前文には、独特の記述があります。それは『自分たちの国がどれだけ素晴らしい国なのか』という自画自賛。中国の憲法の前文には、意訳すれば『世界で最も古い、悠久の歴史をもつ国のひとつである』というような内容が書かれていて、とても長い。

 

では、日本国憲法はというと、欧米の前文よりは少し長めで、中国よりだいぶ短い。平和について丁寧に語っているのが特徴です。ちなみに、’12年に出された『自民党憲法改正草案』の前文はどうかというと……《日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち》《美しい国土》《良き伝統》など、中国のような“自画自賛”的な文言が並んでいるんです」

 

【4】スイスの憲法には「動物保護」も定めてある

 

「日本国憲法では考えられない条文ですが、’00年より施行されているスイス連邦の新憲法の、第80条がそうです。これは、『動物保護に関する規則を定める』役割を担うのは『州ではなく連邦である』という異色の条文ですね。ちなみにスイスでは、かつて『動物を、出血前に麻痺させることなく殺処分してはならない』という内容の条文がありましたが、宗教的な背景もあり、’73年に改正されて、なくなっています」

 

【5】イタリアの憲法には「有給休暇」が定めてある

 

「これもユニークな条文です。イタリア憲法第36条3項には『勤労者は、毎週の休日および年次有給休暇に対する権利を有し、これを放棄することはできない』とあります。これは、自発的に放棄したことにされてしまいがちな立場の労働者を守るという趣旨なのでしょうが、憲法で『休みなさい』とわざわざ書くなんて珍しいですよね」

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