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「スマホへの依存度がどんどん高まっていくと、スマホを片時も手放せなくなります。現実的にやるべきことのほぼすべてを放置してしまう状態になり、社会生活・家族関係に支障をきたすようになりますので、“スマホ廃人”と表現しました。中高生にも増えていますが、私が取材したなかには、主婦たちの例も多かったのです。日中ひとりで過ごす時間の長い主婦だけに、スマホに依存しやすいのだと思います」

 

そう話すのはジャーナリストの石川結貴さん。石川さんはこの春に『スマホ廃人』(文春新書)という著書を出版している。スマホに依存するあまり、夫や子どもたちからも愛想をつかされて……。そんな状態の主婦が増えているという。石川さんが取材した“スマホ廃人”主婦たちの驚きの肉声とは−−。

 

■“お小遣いサイト”での過熱競争の果てに……

 

「スマホで1日500円か600円くらい稼げたらいいな。最初はそんな軽い気持ちだったのですが、熱中しすぎて家事も手につかなくなり、子どもたちのこともほったらかしに……。夫からは叱られるやら、軽蔑されるやらで、夫婦関係も危機的な状態です」

 

こう語るのは、東海地方に住む秋葉紀子さん(40代・仮名・以下同)。秋葉さんは小学生の子ども2人を持つ専業主婦。秋葉さんは、なんと2年半もの間、起床から就寝直前までほぼスマホ漬け。家事も育児もすべて放棄してしまう状態に陥ってしまったという。

 

秋葉さんが、家事の合間の在宅ワークにできればと始めたのがポイントサイト(別名「お小遣いサイト」)だった。人気のものは数百万人のユーザー登録者数を誇っている。サイトによって違いはあるが、「広告を見る」「資料請求する」「アンケートに答える」などのメニューがある。たとえば「広告を見る」というメニューを選び、CM動画を視聴したら10ポイント。初日はお手軽にスマホをいじっているだけで、数百ポイントためることができた。

 

「ためたポイントによって、ショッピングサイトのギフト券がもらえたり、電子マネーに交換したりできます。『今月は20万円稼いだ』なんて書き込みもあって、私も頑張ろうと思ったのです」(秋葉さん)

 

いつしか秋葉さんの生活はポイント獲得を中心に回っていくようになり、かなりの収入があった月もあった。

 

「サービスの1つに商品お試しキャンペーンがあります。たとえばサプリメントを1カ月分購入すると、その金額が丸々ポイントになるというものです」(秋葉さん)

 

ポイントを換金すれば、実質無料で商品を入手することができる。いいことずくめのようだったが、落とし穴があった。“無料でお試し”したつもりが、実際には“定期購入”に申し込んでしまっていたのだ。つまり最初の1カ月は無料だが、その後は料金が発生するという契約だったのだが秋葉さんは気づかなかった。

 

その損失を取り戻そうと、秋葉さんが手を出したのが、「ワーク」というメニューだったという。単価は安いが、指定された文字や文章を正しく入力したり、商品レビューを書き込めば、ポイントを得られるというシステムだ。利用者の入力の正確性を競うランキングもあり、上位者ほど多くのポイントを獲得できる。

 

「ほかの利用者たちに負けたくないと必死になって、朝起きると、すぐにスマホをつかみ取るようになりました」(秋葉さん)

 

その結果、家事もおろそかになり、スーパーのお総菜ばかりが食卓に並ぶようになった。さすがに夫も気づき、厳しく叱られたが、それにも上の空だったという。そんな秋葉さんがふと我に返ったのは、娘が高熱を出しているにもかかわらず、ワークが気になって仕方がないという異常事態に気づいたからだった。

 

「2年半で獲得したポイントをすべて換金したら30万円ほどでした。無駄に買ってしまった商品の金額などを引くと、もうかったのは10万円程度で……」(秋葉さん)

 

試みに、費やした合計時間で時給を計算したらわずか25円にすぎなかったーー。

 

■“位置ゲー”の交通費で家計が崩壊寸前に!

 

「私、君臨しているんです」。そう嬉々として石川さんにスマホ画面を見せてくれたのは、東京都内に住む主婦の、溝口陽子さん(40代)。溝口さんも客観的には“スマホ廃人”

だが、いまだ自覚はしていない。彼女がハマったのは、いわゆる“位置ゲー”。

 

GPS機能を利用しており、移動距離に応じてゲーム内の通貨がもらえ、ゲームに利用することができる。遠くに行くほど、多くの通貨を獲得できるため、まず溝口さんは、日帰りで行ける範囲でバスを利用していた。しかし、あっという間に新幹線、飛行機まで使って全国を巡り歩くように。通貨をためたり、特定の土地に行くともらえるレアアイテムを集めたりするのが楽しくて仕方がなくなったのだ。

 

「同じゲーム内の仲間から《すごいね!》とか称賛のメッセージをもらえるのも快感でした」(溝口さん)

 

だが、この優越感の陰で犠牲になっていたのは子どもたちだった。話しかけられても、煩わしいばかりで、ぞんざいな受け答えばかりするように……。そんな彼女に対し、夫は激怒。「いつも出歩いてばかりで何をやってんだ!」と、怒鳴られたとき溝口さんは、こう啖呵をきった。

 

「このゲームのポイントは換金もできるの。家計の足しになるんだから!私は家族のために頑張ってんのよ!」

 

もちろん夫は納得するはずもなく、家計のみならず家庭崩壊状態に。最近、溝口さんは交通費を稼ぐため、早朝にデリバリーヘルス(風俗の一種)で働くようになった。「今朝もおじいさんの相手をしてきましたよ」と、石川さんにあっけらかんと語ったという。

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