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「おいしいね!」。3歳の男の子が夕食後、食卓に出されたゼリーをひとさじ口に運ぶとそう言って、にっこりとほほ笑んだ。

 

その日、男の子は風邪をひいて保育園を休んでいた。ゼリーには、抗生物質とせき止めの粉薬が入っている。それでも、おいしいお菓子を食べるように、あっという間に食べ終えて、ママを見上げてこう言った。「おかわりあるの?」。

 

男の子が食べていたゼリーは「おくすり飲めたね」。製薬メーカー「龍角散」が販売する服薬補助ゼリーの1つだ。’08年、同社女性初の執行役員となった福居篤子さん(53)が、そのアイデアから開発、販売まで関わった大ヒット商品である。福井さんは、服薬補助ゼリーについてこう語る。

 

「大きな錠剤やカプセル、苦い薬も、服薬ゼリーで包むと、子どもも、お年寄りでもすっと喉を通って、無理なく飲めるんです」(福居さん・以下同)

 

たしかに、最近では老人ホームなどでも、服薬補助ゼリーはよく使われる。ゼリーのおかげで、粉薬が気管に入ってむせることも、薬を吐き出すこともなくなって、服薬の時間がスムーズになった。

 

「龍角散に勤める前、私は臨床薬剤師として、病院の薬局に勤務していました。そのとき多くの患者さんが薬を飲むのに苦労していること、病気を治すための薬というものが理解できない子どもにとってはただ嫌な行為であるということを痛感したんです。どうして飲みにくい薬を作るのか理解できず、全ての人にとって苦痛になっている課題を解決した新しい薬を作りたいと考えました。だから、臨床の世界から製剤の世界に移ったんです」

 

患者さんに寄り添いたい。守りたい。それが、福居さんの製薬の原点だ。200年以上の歴史がある老舗の製薬メーカーらしくアンティークの薬ダンスが配された応接室で、福居さんはソファに浅く腰掛け、ちょっと前のめりの姿勢で話す。

 

「ゴホン! といえば」のフレーズでおなじみの龍角散の銀色の缶をパカッと開けると、付属の小さなサジについての解説を始めた。

 

「このサジは、去年の10月から小さな穴を開け、すくった粉がスムーズに口に落下するように改良しました。粉体力学的な観点から考案したんです。江戸末期に開発された龍角散ですが、生薬の効能を生かした原型はそのままに、いまでも進化を続けています」

 

その熱い口調から自社製品に対する愛が伝わってくる。

 

龍角散の粉末をベースに、飲みやすさを重視した製品が「龍角散ダイレクト」だ。ノンシュガー、水なしで飲めるという龍角散のよいところはそのままに、個包装のスティックに入ったミントやピーチ味の顆粒など、女性でも携帯しやすいこの製品を開発したのも福居さんだ。

 

一時は倒産の危機にあった同社も、ここ数年の売上高は170億円規模。この5年で、売り上げは4倍に増え、躍進を続けている。

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