「子どものころ、自分は将来、アルコールや薬物の依存症になると思っていた人は?」

 

奈良県橿原市にある女性専用の依存症からの回復支援施設「フラワーガーデン」。アメリカで確立された「治療共同体」の手法を取り入れた日本初の施設で、現在、10~60代までの入居者18人が、共同生活を送りながら回復プログラムに取り組んでいる。

 

壁も本棚も白で統一された簡素なワークルーム。講師を務める施設代表のオーバーヘイム容子さん(36)の問いかけに、テーブルを囲んだ女性たち全員が、黙ったまま首を横に振った。

 

「じゃあ、いつ自分は依存症だと思いましたか?」

 

「アルコール依存と男性依存でホストクラブでメチャ飲んで、体も心も壊して、精神科に入院した24歳のとき」

 

「薬物で逮捕された35歳」

 

続いて、今度は容子さん自身の過去が語られた。

 

「私が初めてお酒を飲んだのは、10歳。その瞬間、幼いころから抱えてきた寂しさから解放されたように感じました」

 

大きくうなずく女性たち。

 

「私自身は逮捕も入院の経験もないし、いつでもすぐに元の生活に戻れると思ってた。まさか自分が依存症で、正常な飲酒ができないタイプとは考えもしなくて。それを明確に認識したのは、ほんの5年前。つまり、自分は自分をコントロールできない依存症と知り、そのプロセスを知ることが回復への第一歩。大事なのは自分の無力、パワーレスであると認識することです」

 

口々にパワーレスとつぶやく彼女たちに視線を送りながら、容子さんはこう続ける。

 

「依存症になりたくてなる人はいません。せっかく依存症である自分を受け入れ、お酒をやめて回復プログラムに入ったんだから、あとは仲間とともにクリーンタイム(断酒期間)を続けていくだけです」

 

しかし、自らアルコールや薬物依存からの回復者である容子さんこそが、クリーンタイムの継続が生易しいものではないことを、誰よりも知っている。

 

4月下旬、未成年者への強制わいせつの疑いで書類送検された元TOKIOの山口達也氏(46)の事件を機に、にわかに注目されたのがアルコールへの依存問題だった。

 

現在、アルコール依存症は全国で109万人、うち女性は約14万人で、予備群まで含めると294万人との厚労省データも。また女性はホルモンの関係で、量も期間も男性の半分で常習者になりやすいとされる。

 

「現場の実感としても、女性のアルコール依存症は、ギャンブル依存や買い物依存とともに急激に増えています。夫や恋人との関係、子育て後のむなしさなど、なにかと寂しさに敏感な女性は依存症に陥りやすいのです」(容子さん・以下同)

 

容子さん自身、依存症からの回復を果たし、10年以上のクリーンタイムを過ごしながら、家族の問題をきっかけに再び酒に溺れる日々に逆戻りするつらい経験をしていた。

 

「いまも“飲まない今日”を一日一日積み重ねています」

 

女性専用のフラワーガーデンがオープンしたのは’14年6月。

 

「矢澤(祐史さん・’05年に奈良の施設を第1号として開設した、依存症回復支援を行うワンネスグループの創設者)から、『代表に』と言われたときは正直、戸惑いました。でも、新たな出会いをするチャンスだと捉えました。そして開設してすぐに、心からよかったと思えたんです。というのは、それほど切羽詰まった人が次々にやって来たから」

 

幻聴・幻覚に苦しんだり、心身ボロボロの状態で駆け込んでやって来る女性たち。

 

「『とうとう島流しにされた』『あたしの人生はここでおしまい』と絶望していた人が、共同生活をして、回復プログラムを体験していくなかで着実に変わっていくんです」

 

フラワーガーデンのデイケア施設では、午後のプログラムで「傾聴ワーク」が行われていた。

 

2人1組で相手の話を聞き合ったあと、「ペアになって向き合ってみると恐怖感もあり、改めて私は相手の目を見て話すのが苦手とわかった。ダメだね~」と感想を述べる50代女性に対して、スタッフで、自身もアルコールやギャンブル依存症から回復したここの卒業生でもあるハルさん(38)は、「いや、落ち込むことはないです。実はそれこそが、このワークの目的でした。よく自分を冷静に分析して、なおかつ言葉にできましたね」と話した。

 

「依存症になる人は、子どものころから、自分の思いを言葉にする言語化が苦手です。それも、生きにくさの1つになっていたんですね」

 

感情表現や依存につながる行動パターンを見直す回復プログラムが、午前と午後にデイケア施設で行われ、その間に集会や余暇の時間が設けられている。

 

夕食後は、アルコールや薬物など依存対象ごとに分かれて地域の自助グループへ参加し、1日の行程を終えると、少し離れたハウスと呼ばれる寮に帰る。こうした共同生活が平均して2年間続く。

 

「山口さんがアルコール依存かどうかを私は判断できませんが、依存症の人を社会全体で支える体制は必要と思います。施設はもちろん、アディクション(依存症)カウンセラーなど、人材の育成も急務ではないでしょうか」

 

現在、容子さんはフラワーガーデン代表を務めながら、女子刑務所や高校などで薬物の乱用防止やアルコール依存をテーマにした講演なども精力的に行っている。