河瀬直美 私が東京五輪で撮るのは「支え合って生き抜く力」

「ドキュメンタリー国際映画祭のために、アムステルダム(オランダ)に1日。その後、ニース(フランス)で『Vision』(日本公開’18年6月)の先行上映があり、パリには4日間の滞在でした」

 

前夜、帰国したばかりというヨーロッパ出張を振り返る河瀬直美監督(49・※瀬は旧字体)。パリのポンピドゥー・センターでは、1月6日まで「河瀬直美監督特集特別展・特集上映」を開催。特別展では「生命」「自然」「世界」「家族」など、河瀬作品に共通するテーマを写真や映像、インスタレーションで紹介。特集上映では、初期の短編から最新作まで、約40作が一挙に上映された。

 

「そのオープニング・イベントで、『Vision』で主演したジュリエット(・ビノシュ=フランス人女優)が挨拶してくれました。彼女はいま、是枝裕和監督の新作に出演中なんですが、その日のテイクを終えたその足で駆けつけてくれて……」

 

河瀬さんは、カンヌに愛された監督だ。’97年、『萌の朱雀』で、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を、史上最年少の27歳で受賞。’07年には『殯の森』でグランプリ(審査員特別大賞)、’09年は、映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金の馬車賞」、’17年の『光』は、エキュメニカル審査員賞を受賞している。

 

その河瀬さんが2020年東京五輪公式映画の監督に選ばれた。10月23日の就任記者会見では、こう抱負を述べている。

 

「すでにさまざまなところで、東京五輪に向けたドラマが始まっています。それを見つめることが、この仕事の醍醐味。時間の許す限り、各地に足を運んで撮影したい」

 

とことんリアリティを追求する。それが河瀬さんの作風だ。ドキュメンタリー作品だけでなく、劇映画でもその姿勢は徹底している。河瀬作品『あん』(’15)の原作者でもあり、『朱花の月』(’11年)では主演男優を務めたドリアン助川さん(56)は、撮影時をこう振り返る。

 

「主演女優の大島葉子さんと僕の2人は、1カ月も前から、奈良県の撮影地に一軒家を借りて、現地の方々のなかで役名を名乗って暮らすことを指示された。ご近所から野菜をもらったりしてね(笑)。だから、撮影中は“役になりきる”どころか“役そのもの”として生きていたよね。それほどリアリティに厳しいし、怖い監督なんです」

 

東京五輪を見つめ抜き、切り取った映像で、河瀬さんは何を表現するのだろう。

 

「これまでも、これからも、私は私の目の前のものにまなざしを向け、それを記録してゆく。そこは変わりません。五輪も同じです。私は等身大でしか物事を見つめられない。俯瞰するまなざしと同等に主観やオリジナリティを大事にして、目の前にあるものを見つめ抜く。等身大で見たリアルを真摯に描きたいですね」

 

河瀬さんの目は、大会のバックヤードにも向いていた。

 

「控室、練習、選手はどんなトレーナーに支えられているのか。選手村の食事はどうしているのか。食べることは命ですから」

 

具体的な撮影プランはこれからだ。中高時代はバスケットボールに打ち込み、県代表として国体に出場した河瀬さん。

 

「中高時代に没頭したバスケットボールはもちろん、柔道、体操、卓球、日本人の活躍が目ざましい競技はフォーカスしたいと思います。でも、世界中で分断が進むいま、国を超えて、スポーツで、平和や生きる希望を見いだせるオリンピックの本質をこそ、とらえたい。ルールという枠のなかで、ポテンシャルを最大限、出して競い合えることは、イコール平和への道につながると思います」

 

感動の目玉は、チームワーク。「支え合って生き抜く力」だ。

 

「体力、戦力は劣勢でも、それぞれが自分の役割をまっとうできるチームは強い。勝者がどういう道程をたどって、上りつめたかを描くことで、そこにあるチームワーク=つながりも見えてくる。チームでひとつのものを目指すことで、達成感を共有できる。それで未来を目指していける。映画を見る人には、そこに、生き抜く希望を見いだしてほしいと思っています」

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