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《自家用車のカーナビでも、NHK受信料の契約義務が生じる》

 

そんな驚きの判決が、東京地裁で下ったのは、5月15日のことだ。

 

テレビは持っていないが、テレビ放送が視聴できるワンセグ機能付きのカーナビを所有する女性が、契約義務がないことの確認をNHKに求めたこの裁判。女性は「カーナビは交通案内のため」と主張したが、東京地裁は「放送を受信する目的がないとは認められない」として、女性の訴えを退けた。

 

今年3月には、ワンセグ付き携帯電話にも、受信料の契約義務があるという判決が最高裁で確定している。元NHK職員でアゴラ研究所代表の池田信夫さんは次のように語る。

 

「まったく別の目的で購入した電化製品でも、ワンセグ機能が付いている限り、NHKと受信料契約を結ばないといけない。そんな判決が相次いでいます」(池田さん)

 

さらに、今までNHKが制限されていた、テレビ放送と同時のインターネット配信を可能にする放送法の改正案が、5月29日に現国会で成立した。これは、近い将来、スマホやパソコンで、ネットを通じたNHKのライブ視聴が可能になることを意味するのだが……。

 

「ネットに接続されているスマホやパソコンを持っていると、“NHKを受信できる”と見なされてしまうようになる。 NHKが受信料の支払いを求める根拠になってしまうでしょう」(池田さん)

 

世帯ごとに払わないといけないため、単身赴任中の夫や、進学のために下宿中の子どもがいる人は、今回の法改正で大きな影響を受けるかもしれない。

 

現在、地上放送のみ見られる契約だと月額1,310円、衛星放送も加えた契約だと月額2,280円(いずれも振り込みで月払い)となっている受信料。

 

NHKの収入の9割強が、この受信料によるもので、現在の“支払い率”は82%。契約の対象のうち、8割が受信料を支払っているが、NHKはこれを限りなく100%に近づけようとしているのだ。

 

「NHKは、国民すべてから受信料を取る方向に大きく舵を切ったと言っても過言ではありません」(池田さん)

 

■受信料の歴史

 

【1950年】
放送法によって、特殊法人としての日本放送協会成立。

 

【1953年】
テレビ放送開始。受信料はテレビとラジオの2本立て料金(200円)。

 

【1966年】
受信料の支払い義務化をめぐる放送法改正が初めて国会で審議される。

 

【1970年代】
番組内容が保守的として、受信料不払いが起こる。

 

【1989年】
衛星放送の付加料金を導入。カラー契約受信料が月額1,000円を超える。

 

【2004年】
紅白歌合戦なども担当したプロデューサーの巨額制作費の着服が発覚。ほかにも不祥事が報じられる。

 

【2006年】
個人の受信料未払い者に支払い督促が申し立てられる。

 

【2009年】
宿泊施設の受信料請求訴訟を起こす。

 

【2014年】
東京地裁がビジネスホテルチェーン「東横イン」に全室分の受信料を支払うよう命じる。

 

【2015年】
’17年度末での支払い率80%を目指す「ターゲット80」開始。

 

【2017年】
テレビ設置で、受信料の契約義務と最高裁が判断。

 

【2019年】
「ワンセグ付き携帯電話」の契約義務と最高裁が判断。カーナビの受信料は義務と東京地裁が判断。受信料収入が過去最高を記録。

 

じつはNHKが法的な措置をしてまで、受信料を徴収するようになったのは、この10年ほどのことだという。きっかけは’04年に発覚したNHKプロデューサーによる巨額の制作費着服事件だ。

 

多くの国民の怒りを買ったこの事件から、全国的に受信料の支払いを拒否する人が相次ぐ。事件前まで、78%前後を推移していた支払い率は、事件が発覚した翌年の’05年には、69%台まで落ち込んだ。

 

支払い率の激減に危機感を抱いたNHKは、受信料の支払い拒否者に対して督促状を送るように。さらに、受信料を払わない人を訴える例も出てきた。

 

裁判を辞さないNHKの方針に支払い率は急増。特に、大きな影響を与えたのが、受信契約を拒否した男性をNHKが’11年に訴えた裁判だ。受信料の問題に詳しい芝田総合法律事務所の高崎俊弁護士が解説する。

 

「テレビを持つだけでNHKと受信契約を結ぶことが、憲法で保障されている『契約の自由』に反するかどうかが争われました。1審も、2審もNHKの勝訴。’17年12月、最高裁判所が、NHKの受信料制度は合憲という判断を下し、裁判は終結しました」

 

最高裁は、NHK側の主張を認め、広く視聴者が負担する受信料の支払いを法的義務としたが。

 

「契約こそ成立しますが、受信料の支払いについては、NHKが個々に民事訴訟を起こして確定判決をとる必要があることも示されました。1世帯あたり年額1万3,000円ほどの受信料を取り立てるために訴訟を起こすのは、費用対効果が見合いません。NHKにとって“未払い問題”の根本的解決にならなかったのです」(池田さん)

 

それでも、一連の裁判は多くの国民にインパクトを与えた。NHK受信料の支払い契約数が急増し、’18年度の受信料収入は、前年度より209億円も増え、7,122億円と過去最高を記録した。

 

しかし、NHKの方針に違和感を持つ国民は少なくない。

 

NHKは’20年の東京五輪後から、総額1,700億円をかけて、新社屋の建設を開始する予定。また、役員の高額報酬や1,000億円を超す巨額な繰越金など、厳しく受信料を徴収しながら、放漫経営をしていると考える人も多い。

 

「4月の統一地方選挙で、『NHKをぶっ壊す』ことを“公約”に掲げた『NHKから国民を守る党』が大躍進し26人が当選しました。その根底には、NHKに向けられた国民の視線の厳しさを物語っているのです」(池田さん)

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