ペットボトルのお茶から毒性の強い農薬が検出されたとの報道があった。それらは、さまざまな農産物から検出されている。背景には海外に比べて緩すぎる残留基準が――。
《池中准教授らの(農薬の残留濃度の)分析結果によれば、市販のペットボトルのお茶からもほぼ全数で(ネオニコチノイド系殺虫剤)が検出され、濃度は数~数+ppbになるという》(7月29日付、朝日新聞)
調査を行ったのは、北海道大学大学院獣医学研究科の池中良徳准教授。ネオニコチノイド系殺虫剤とは、水によく溶け、農家が使いやすい農薬として昨今、使用量が増加しているが、生産物への残留や環境への影響が問題視されているものだ。この驚きの結果について、NPO法人「食品と暮らしの安全基金」代表の小若順一さんが言う。
「池中准教授らは、市販の茶葉39検体とペットボトル入りのお茶9検体を調査しました。茶葉からは検体対象のネオニコチノイド系農薬全7種類のうちいずれかが、すべての検体から検出されました。ペットボトル入りのお茶からは計6種類が検出され、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサムが検出率100%となったんです」
ネオニコチノイド系農薬が人体に及ぼす影響もあるのだろうか?
「7種類中2種類は発がん性があるとされています。チアメトキサムは肝細胞がんを、チアメトキサムは甲状腺がん、子宮腺がんを起こしたという報告がされていて、内閣府食品安全委員会の農薬評価書に《発がん性が認められる》という記述もみられるほどです」
ネオニコチノイド系農薬について『知らずに食べていませんか? ネオニコチノイド[増補改訂版]』(高文研)などの著書がある水野玲子さんが、次のように説明する。
「ネオニコチノイドは、たばこの有害成分『ニコチン』に構造が似ているため、『新しいニコチン様物質』という意味で名づけられました。作物のあらゆるところに浸透しやすく、残りやすいため、殺虫効果の持続性が高い。一方でほかの殺虫剤と混ざると毒性が倍加し、ミツバチへの毒性が1,000倍になるとの報告もあります。生体の中に入るとより毒性が増すという特徴も。さらには、脳の情報伝達にも悪影響を及ぼす恐れが指摘されているんです」
このような重大な作用を及ぼす危険性があるネオニコチノイド系農薬。日本茶輸出促進協議会が発表した「輸出用茶残留農薬検査事業 実施報告書」には、次のような分析結果が記されていた。
’15年6月から7月に輸出用日本茶99点を調べた結果、ネオニコチノイド系農薬のイミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリドなどが含まれていた。そのうちチアクロプリドは前述のとおり、発がん性が指摘されている農薬だ。
水野さんがその背景を指摘する。
「そもそも日本の残留基準が緩すぎなんです。人が摂取しても安全な基準として各国が定めている『残留基準値』で比べると、『茶に残留するチアクロプリドの基準値』は、日本はEUの3倍、台湾の300倍も緩い値を設けているんです」
ネオニコチノイド系農薬の残留農薬は、ほかの農産物からも検出されている。’17年に農水省が農産物別に数十種類の農薬を検査したうち、前出の発がん性が指摘されたチアメトキサムが、里芋、ほうれん草から検出された。
調査した農水省に見解を問うと。
「残留値はいずれも基準値内で、問題はございません。食品安全委員会(内閣府)の食品健康影響評価の結果、チアメトキサムおよびチアクロプリドはいずれも遺伝毒性試験の結果で遺伝毒性(遺伝子を損傷させる性質)は認められませんでした。(ラットなどの試験で)チアメトキサムは肝細胞がんの増加、チアクロプリドは甲状腺ろ胞細胞腺腫、子宮腺がんなど発生頻度の増加は認められています。しかし、それは遺伝毒性によるものとは考えにくいため、閾値(=境目となる値)は設定可能と結論づけられています」
その閾値の設定で「リスク管理は可能」であり、「健康への悪影響はないと推定される」との回答だった。
当該の食品安全委員会と、日本茶輸出推進協議会、食品中の農薬の残留基準値を設定している厚生労働省も、ほぼ同内容の回答であった。このように、国の関係各所は「安全性は担保される」と主張しているが、これに対して前出の小若さんは、こう反論する。
「がんは、遺伝子が傷つくこと、発がんが促進されること、という2段階で発生します。国はがんを発生させた2つの農薬を使った動物実験で、がん発生頻度の増加は認めていますが、『遺伝子を傷つけないので、がんを発生させない』として使用基準を設定しました。しかし、加齢でも遺伝子は傷つくので、『年をとったら、2つの農薬でがんにかかりなさい』という基準なんです」
巷にあふれる野菜や食材に付着する農薬は『見えない』からこそ、有機野菜など「作り手の顔が見える」ものを食卓に織り交ぜるなどの工夫が必要かもしれない。