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「あの……、相談したいんですけど……コロナのせいで仕事が見つからず、預金も残り少なくなってしまって、不安で不安で……」

 

それは、先月半ばのことだった。電話をかけてきた女性の声は、いまにも消え入りそうだった。

 

ここは、東京都新宿区にある「自立生活サポートセンター・もやい」。生活困窮者の支援活動を行うため2001年に設立された認定NPO法人だ。もやいでは、毎週火曜日に生活困窮者のための相談会を開催している。ボランティアスタッフに促されて、その相談会に足を運んだ電話の女性は相談員を前に、自身の窮状を涙ながらに訴えた。

 

「リーマンショックでも、東日本大震災のときも、失業者が大量に出るという大変な状況でした。でも、景気さえ回復すれば、失業者は労働市場に戻ることができましたし、そこを目指せばよかった。でも、今回のコロナは……目指す先が見通せないというのが大きな違いです。コロナ関連の相談が最初にあったのは、2月末でした」

 

こう語ったのは、もやいの理事長・大西連さん(33)。

 

コロナ禍で、ステイホームが叫ばれるようになると、家庭内暴力の事案も散見されるようになった。その一例が、馬場紗香さん(仮名)のケース。

 

「彼女はまだ19歳。幼いころから父親に虐待を受けていて、過去には児童相談所に保護されたこともあるそうです。父親は仕事が多忙で、ふだんは家にあまりいないので、なんとかしのげていたものの、コロナで在宅勤務になり、また暴力が激化したそうです。彼女がまだ10代である点も考慮し、まずは法律家が運営する女性向けのシェルターを紹介し、その後に生活保護の申請を行ってもらいました」

 

学校が休校になったことで、追い詰められてしまった母親もいる。堂上智恵子さん(仮名)は44歳。中学生と小学生、2人の子を持つシングルマザーだ。

 

「夫のDVが原因で数年前に離婚して、それ以降、契約社員として働きながら、公営住宅でギリギリの生活を送ってきたそうです。ところが、コロナで職場が休業になり、会社が休業補償の制度を利用してくれないことで収入が途絶えてしまったといいます。さらに、休校で給食がなくなり昼食を用意するのが経済的に苦しいと。近所の子ども食堂の世話にもなったそうですが、こちらもその後、閉じてしまって『頼れるところがもうどこにもない』と泣いていました」

 

すでにご両親も他界している堂上さん。預金もほとんど底をついていたため、大西さんたちは即座に生活保護申請を勧め、窓口にもスタッフが同行したという。

 

大西さんはコロナ禍で、困窮者がこの先もさらに増える可能性を危惧しながら、こう続けた。

 

「弱い立場にもともと置かれていた人たちが、いま、いっそう稼ぐことができなくなっている。ところてんが押し出されるような勢いで、彼ら彼女らが社会からこぼれ落ちようとしています」

 

しんどさに追い討ちをかけるものが、ともすると私たちの心のうちにあると、大西さんは言う。

 

「苦しい状況の人を税金を使って支援することに、ネガティブな感覚を持つ人が、まだまだいて。今回の給付金のように、全員に10万円なら、さほど表出してきませんが、これが従来のように一定水準以下の減収世帯だけに30万円となると、途端に『あいつはもらえて私はもらえない』という感覚になる。本来は、困っている人を皆で支える、そのためにその人にお金が渡るのって、とてもフェアなことなのに、アンフェアだと感じてしまう。さらに『自分は10万円、受け取りません』と、まるでもらうことが恥ずかしいことのようにコメントした政治家のように、分断を煽るようなメッセージを発する人までいる。そんなふうに皆でディスり合っても、なんのメリットもないばかりか、結果的には全員がしんどくなるだけだと、皆が早く気づくべきです」

 

「女性自身」2020年6月9日号 掲載

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