「日常生活もままならないほど“コロナ後遺症”に苦しんでいるのに、病院では〈心の病いだ〉〈気の持ちようで治る〉などと言われ、死を考えるほど追い込まれている方がたくさんおられます。とくに女性は、男性に比べて約1.5倍、後遺症が出る人が多いことがわかってきました」
こう話すのは、ヒラハタクリニック(東京都渋谷区)の院長・平畑光一さん。“新型コロナ後遺症外来”を設置し、これまで400人以上の患者を診てきた。“コロナ後遺症”という言葉は聞いたことはあっても、どのようなものかを知らない人は多いだろう。平畑院長は、こう続ける。
「その症状は、動けないほどの倦怠感や、気分の落ち込み、胸痛・筋肉痛など体の痛み、頭痛、息苦しさ、食欲不振、嗅覚・味覚障害、脱毛など多岐にわたります」
ヒラハタクリニックを訪れる患者が訴える症状のなかで、特に深刻なのが“倦怠感”や“食欲不振”だと平畑院長。しかし、そうした症状を訴えても、「どこも悪くない」と治療すらしてくれない病院が多いという。
「海外では研究が進んでいますが、日本ではまったくコロナ後遺症が認知されていません。そのため医師からは、『心の病いだ』と診療を放棄され、家族からは『なまけている』と叱責され、勤務先からは『さぼっている』と思われて、派遣やパートを辞めさせられた人も多いと聞いています」
平畑院長は、今後の治療に役立てるため、症例のデータベース化を進めている。コロナ後遺症で大事なのは、倦怠感が強い場合は無理して動かないことだという。
「コロナ後遺症が疑われる人の中には、社会生活がまともにできないほど倦怠感の強い“慢性疲労症候群”に近い状態の方がいます。そういう方は、仕事はできるだけリモートワークにしてもらう。通勤する必要があるときには電車が混んでいる時間を避けて座れるよう時差通勤をする。重い荷物は持たない。必要であれば、会社にそうした配慮を求める診断書を、私は書いています」
具体的な治療方法も、少しずつわかってきたそう。
「倦怠感や思考力・集中力の低下などを訴える患者に対しては、免疫力を上げたり、疲労回復が期待できる亜鉛やアミノ酸などのサプリを勧めます。亜鉛不足だと抜け毛も多くなりますし、コロナ後遺症の疑いがある方の血液を調べると、ほぼ全員、亜鉛不足でした」
漢方も有効だという。
「体が冷えてむくんでいる方も多いので、そういう方には体を温める作用のある漢方を処方します。それだけでもつらい倦怠感が軽減されることがあります」
食べ物にも注意が必要だ。
「息苦しさや動悸を訴える人の中には、“逆流性食道炎”にかかっている方が多いことがわかってきました。こうした症状を軽減するために、カフェイン、油物、甘い物を控える。寝る前の食事や、寝る直前の水などもできるだけ控えてもらっています」
まだ手探りで始めている治療だが、平畑院長は「時間はかかっても、必ず症状はよくなっていく。あきらめないでほしい」と呼びかける。
「うちに通っている方も、ほとんど症状が緩和されてきています。病院で検査して『どこも悪くない』と言われ、日常生活も満足に送れず絶望していた方でも、漢方やサプリで軽減されたケースもありますから。ただし、早く治療したほうが症状は軽くてすむので、コロナ疑いの症状が出たら、早めに理解ある医師を探して相談することをおすすめします」
こうしている間にも、感染者はどんどん増えている。しかし、政府は「死亡率さえ低く抑えられればよい」という考えでGo Toキャンペーンなどを止めようとしない。こうした政府の姿勢に対し、平畑院長は、こう苦言を呈す。
「軽症者でも、コロナ後遺症に苦しんでいる人は多い。政府には、そこを十分に理解して国民にアナウンスしてほしい。また、PCR検査を受けられなかった人たちの中にも、後遺症で悩んでいる人は相当数いるはずなので、医療現場に周知して、多くの人が安心して受診できる環境を整えてほしい。医師から〈心の病いだ〉と言われて絶望した人から、〈私たち家族はもう死にます〉というFAXが今朝もクリニックに届いているんです」
待ったなしの対応が求められる。
「女性自身」2020年12月22日号 掲載