「体重、もう13kgもあるんです。体は同い年の健康な子と変わらないんですけど、発達は生後5~6カ月ぐらい。腹ばいになって、顔を上げられるようにはなりましたけど、ハイハイはまだできません。長い時間、ひとりで座っていることもできないんです」
たしかに、食事中の陽向くんは体を固定するベルトのついた、特殊な椅子に腰掛けていた。
「あ、でも、本当につい最近、ひとり座りもできるようになったんです! まだ5分ぐらいなんですけど。それから目も、ほとんど見えていなかったのが少し前、眼科に行ったら先生が『光を追うようになってる。おそらく、うっすらと見えてきてますよ』って」
ゆっくりではあるものの、たしかな愛息の成長に、絵里奈さんは目を輝かせ、顔をほころばせた。でも、彼女がこんなふうに笑えるようになったのは、息子の病気が判明して、しばらくたってからのことだった。
「最初はずっと泣きどおしでした。でも、子供たちのおかげで私、強くなったんです」
マットに寝かせた陽向くんの足をいとおしそうになでながら、絵里奈さんはもう一度、にっこりとほほ笑むのだった。
間もなく4歳になるいまも、陽向くんは通院を続けている。
「治療法がない病気なので、検診が主です。半年に一度、腎機能の検査、そのほか眼科、神経内科、歯科にも。それと毎月、運動機能を高めるため理学療法を受けてます。座ったり、装具をつけて立つ訓練。陽向には大人の筋トレみたいにきついはずです。リハビリの先生の声を聞くだけで泣きますから。あとは毎日、私が全身をマッサージしてあげて、家でも訓練をして。たいへんだけど、最近になって座れるようになったり、少しずつ成果は上がっています」
陽向くんの足をマッサージしながら、こう言って胸を張った絵里奈さん。その様子を見ていた母・尋美さんが言葉を継いだ。
「陽向も成長してますが、絵里奈もたくましくなりました。以前は、何でもかんでも私に聞いていたのが、いまではちゃんと自分で決められるようになった。肝が据わって、母親らしくなりました」
マッサージを続けながら、絵里奈さんは母に向かって頭を下げた。
「陽向のおかげで、私は人に恵まれてるんだなって心底、実感してます。両親もきょうだいも友達も、みんな温かくて。ありがたいご縁だなって。ねぇ、チャーちゃん、だからキミはママのところに生まれてきたんだよねぇ」
よほどマッサージが気持ちよかったのか、陽向くんはスヤスヤと寝息を立て始めた。その寝顔を、ママはいつまでも優しく見つめ続けていた。