■病院でのワクチン管理も超簡単!
「筋肉注射型では血液内に抗体はできますが、鼻腔内は守られないので鼻からブレークスルー感染が起きてしまう恐れがあります。
われわれが開発しているのは鼻から粘膜免疫を入れることで、鼻と血中に抗体を生成するシステム。血中だけではなくウイルスの“入口”をガードすることが重要だと考えています。技術だけでいえば昨年3月から着手して5月にはできていました」(福村氏)
点鼻する側の医療従事者にとっても利点があるという。
「病院でのワクチン管理も簡単です。現行のワクチンはマイナス何十度を維持する特殊な冷凍庫設備が求められますが、鼻ワクチンは4度ほどで管理できます」(福村氏)
そして大きな懸念点である接種時の痛みや副反応について、福村氏はこう自信をのぞかせる。
「点鼻時にツンとすることはあるかもしれませんが、注射のような痛みはなく、投与する量も筋肉注射より少ないため、副反応も少ないと考えていいと思います。ラムダやミューといった最新の変異株のウイルスをもとに常にワクチンもアップグレードしているので、今後出る変異株に対しても早く対応できることも強みです」
とはいえ、あまり経験のない経鼻型ワクチンの効果に不安を抱く人もいることだろう。 だが、医学博士で元WHO専門委員、『感染予防BOOK』の著者である左門新先生によると、決して珍しいものではないようだ。
「鼻からスプレーするタイプのワクチンは、インフルエンザですでにあるんです。アメリカや欧州では鼻に噴霧して粘膜に抗体ができるものが十数年前から使われていて、日本でも未認可ですが、一部の医療機関で使用されています」
左門先生も効果に期待を寄せる。
「従来の予防接種は結局、ウイルスが体内に入ってからやっつけるので、本当の予防ではありません。しかし、鼻ワクチンのように粘膜にできた抗体でウイルスの侵入をブロックできれば本当の予防です。さらに、従来のワクチン同様に体内でも鼻の粘膜とは別の抗体も産生し、予防持続期間も長いと思われるのです」
接種時の痛みだけでなく、高熱などの副反応も薄いことが期待される鼻ワクチン。2年後の実用化を目指しているというが、最後に今後の展望について福村氏は語ってくれた。
「今はまだ動物実験の段階ですが、1年ほどで人に対する治験に進みたいと思っています。病院に卸す価格は、インフルエンザワクチンなどと同程度の1千円ほどになるかと。極力安く供給したいと思っています」
収束までに長い時間がかかるであろうコロナ禍。気軽にワクチン接種できる未来が早く来ることを願うばかりだ。