シンママで女性漫画家の水野英子「私にしか描けない物語がある」
画像を見る 気さくにサインに応える水野さん

 

■自費出版でのデジタル処理は息子さんが担当。いまでも描きたいテーマは湯水のように湧いて

 

かつての水野さんが暮らし、手塚治虫、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄A、藤子・F・不二雄、寺田ヒロオといった昭和を代表するマンガ家が青春時代を過ごしたことで、マンガの聖地となった「トキワ荘」が再現されている「トキワ荘マンガミュージアム」(東京都豊島区)。

 

そのミュージアムの前で水野さんの写真撮影をしていたときのこと。

 

「水野先生ですか? 会えるなんて夢みたいです!」

 

高揚した声で近づいてきたのは、2人のファンの女性だった。

 

「私は『白いトロイカ』『すてきなコーラ』『ハロー・ドク』が大好きです。昭和30年生まれで、まさにリアルタイムで読んでいました」

 

恐縮しながら話し続ける彼女たちに、水野さんは気さくにうなずき、求められるままサインをした。キュートな文字の「水野英子」はデビュー当時から変わらない。

 

現在、ミュージアム1階で特別企画展「トキワ荘の少女マンガ」を開催中。11月7日には、サイン会とオンラインでのトークショーが開かれる。

 

水野さんの後輩にあたるマンガ家の里中満智子さん(73)は語る。

 

「初めて読んだ水野先生の作品は、男性がとても魅力的に描かれて、それまでの少女マンガにはない画期的なものでした。私たち次世代のマンガ家は、水野先生の作品に憧れて、一生懸命描いたものです」

 

里中さんも少女時代、水野さんにファンレターを送った1人だ。

 

「自分で描いたイラストを同封して、マンガ家になれるか相談したら、きちんとお返事をくださった。『作品ができたら送ってね。見てあげる』とあって、ワーッと感激して、さらに懸命に描きました。私がデビューした後も、先生は常に世の中をリードするテーマを手がけ、そのスケールの大きさには、ただ圧倒されるばかりです。ですから、水野先生は、私たちの道を切り開いてくださった、ずっと大切な憧れの存在なのです」

 

昨年、画業65周年の節目に、デビュー当時からの主な作品を収めた『薔薇の舞踏会 水野英子画集』(玄光社)が出版された。原画はすでに紛失していたため、掲載誌から起こして、デジタル処理で修復するという膨大な作業の末に完成した画集だった。

 

その修復を一手に引き受けたのが、一人息子の春暁さんだ。美大出身の春暁さんは、樹木洋二のペンネームで、画家、マンガ家、イラストレーターとして活躍。水野さんの自費出版の作品も、HPなどに掲載する際のデジタル処理は、春暁さんの存在なしにはできないことだ。

 

「私が作業中に張りついて、あれこれ注文をつけるので、ときどき侃々諤々(かんかんがくがく)となって(笑)。でも、根気強く付き合ってくれています。家族だから、できることですね」

 

一瞬、優しい母の顔になった。

 

いまでも描きたいテーマは湯水のように湧いてくる。

 

「クラシック音楽をテーマに据えた作品は描きたかったですね。私には、音楽を感じさせる絵を描く自信がある。読者が、どんな音楽か想像するほうが、音が飛躍して、きっと面白いはずです。私じゃなければ描けません」

 

ひとつとして同じ音楽を作らない吟遊詩人が主人公。同じ気概が水野さんのなかで燃え盛る――。

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