■企業、政府がスキルアップを後押しする
経営者が“チャレンジ”しないので、社員もスキルアップをしようという意識が働かない。その結果、社員が労働で生み出す「付加価値」も高まることはない。
「先日、私は外資系企業の近くのカフェに入ったんですが、隣にアメリカ人上司と日本人社員が座っていました。すると2人の会話が聞こえてきまして……。上司は、『君はすごく頑張っているが、想定レベルに達していないよね』と。言われている日本人社員は、かわいそうに顔面蒼白です。上司は続けて『アチーブメントプログラム(=研修)を受けてみないか』と。おそらく、それを受けて、かつスキルが上がらなければ、彼の行く手は暗いでしょう。外資系は、経営者も社員もプレッシャーのかかり方が違うんです」
近年、社員のスキルアップを通じて生産性を高めようという動きは、日本の一部大企業でも見られるようになった。
「先日、Yahoo! JAPANが約8千人の全社員に、AI、データサイエンティストなどの最新テクノロジーのスキルをアップさせるプログラムを始めることが明らかになりました。数年後には全員が身についていることが目標だといいます。オンライン講座などの設備費や環境は会社が準備し、後は個人で習得してくださいということ。また、GMOインターネットは2023年度から、新卒採用をエンジニアや統計のスキルがある人材に絞ると発表。ほかにもこうした方向にシフトする会社が出てきている。そうしないと生産性が上がらないんです」
しかし、こうした個々の民間企業の努力だけでは、日本全体の生産性を向上させるには至らないという。政治に求められることは多い。
「企業の経営のためのルール作りが不十分で、債務超過や不正会計への処罰が甘いことが経営者の甘えを生んでいます。さらに、日本は国策として『社会で通用するスキルを磨くための大学教育』をやらなければいけません。もうひとついえば、社会人になってから大学で学ぶ社会人入学率はOECDで最下位から数えて2番目なんです。そのために必要なのは大学教育の充実であり、それができているのは欧米です。日本はむしろ、お金がない人は大学に行くなというのが、昨今の雰囲気になりつつある。言われて久しい大学無償化を早急に進めるべきです」