椿さんのいた日々を振り返る、みやびさんとご家族 画像を見る

A4サイズ、84ページ。約10万字の冊子。それはわが子が難病と闘いながら、懸命に生ききった証しだ。

 

亡くなってから一年が過ぎ、母はようやく気持ちの整理がついたという。そして、同じように難病を抱えた子供とその家族たちのサポートに乗り出そうとしている。いつでも見てるよ。応援してるーー天国からの椿さんの励ましを胸に、いま、前に歩いていける。

 

「娘が天国に旅立ってしまったあと、みんなの中の『椿』が消えてしまうのが怖くて。だから、娘が生きた証しを作ろうと思ったんです」

 

井上みやびさん(37)は、A4サイズ、84ページに、細かな文字がびっしりと詰め込まれた冊子を手に、強い口調でこう語った。目にはうっすらと光るものが浮かんでいるようにも見える。

 

この日、記者が訪ねたのは岡山市郊外の一軒家。

 

3年前に再婚した夫・晋志さん(43)と長男・楓くん(7)、そして、みやびさん……、家族で囲むダイニングテーブルの上に、ピンクのかわいらしいテディベアが、ちょこんと座っていた。

 

「生前、娘がいつもそばに置いてかわいがっていたもの。彼女が亡くなってからは“椿ベア”と名づけて。いまは私たちと、いつも一緒です」

 

みやびさんの長女・椿さんは生後すぐ、心臓に疾患があることが判明。長く苦しい闘病の末、昨年2月、14年という短すぎる生涯に幕を下ろしたのだった。

 

「でも、椿はずっと頑張って、すごく頑張って生きてきたんです」

 

懸命に生きる娘のことを知ってほしいーー、そんな思いで、みやびさんは数年前から、SNSに椿さんの闘病のことを投稿していた。

 

「そもそもは、親の私が抱えきれなくなったしんどさ、いわば毒を吐き出す場だったんですけど」

 

こう自嘲するが、彼女のツイッターやインスタグラムには、気付けば大勢のフォロワーが集うように……。

 

娘の最後の日々を切々とつづり続けた母の投稿は、たくさんの人々の涙を誘った。とくに、椿さんの葬儀の翌日のツイートは、それまでの何十倍もの、多くの耳目を集めた。国内外の複数のネットメディアも彼女の投稿を記事にした。その1つは大手ポータルサイトのトップページにも転載され、瞬く間に拡散。果たして、みやびさんのツイートには、およそ20万もの人が「いいね」ボタンを押した。

 

そのツイートで、みやびさんがアップしたのは、娘から送られた、感謝と激励のメッセージだった。それを読んだ人たちからは、

 

〈涙が止まりません〉
〈なんて優しい娘さんなんでしょう〉
〈胸が締め付けられました〉

 

などなど、数えきれないほど多くのコメントが寄せられた。

 

「なかには『お嬢さんの言葉に、自分の人生を見つめ直しました』と書いてくださった方も。椿が、たくさんの人の胸に響く強い言葉を残したことに、驚かされました」

 

娘が遺した言葉に触れ、それまで悲嘆に暮れていた母も、少しずつ前を向けるようになった。みやびさんはもう一度、冊子を手にとり言葉を継いだ。

 

「私は、娘の言葉に突き動かされるようにして、椿が病気とともに生き抜いた14年間の軌跡を形にして残したいと、この冊子を書き上げたんです」

 

こうして昨年末、椿さんの一周忌を前に完成したのが、総文字数10万に及ぶ冊子『病気と共に生きる』。それはまさに、椿さんの生きた証しだった。

 

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